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24時間いつでも使える環境発電へ、光と熱の両方からエネルギーを収穫エネルギー技術 エネルギーハーベスティング

エネルギーハーベスティングには、まだ課題も多い。その1つが、24時間365日いつでも使える動力源を実現することだ。

» 2011年01月05日 00時00分 公開
[薩川格広,EE Times Japan]

 われわれの身の回りには、熱や振動、光、電磁波といった小さなエネルギーがたくさん存在している。それらをうまく「ハーベスト(収穫)」して、電子機器の動力源として利用する技術がエネルギーハーベスティング(環境発電)だ。電池不要の無線センサー端末を実現する技術として注目が集まっている。

 実用化も進んでおり、例えば欧州では照明や空調などを操作するスイッチにこの技術が適用され、すでに広く普及している。人がスイッチを押す力を利用して、電磁誘導で電気エネルギーを発生させる機構を組み込む。

複数の異なる環境エネルギーに低コストの単一デバイスで対応へ

 ただしエネルギーハーベスティングには、まだ課題も多い。その1つが、24時間365日いつでも使える動力源を実現することだ。

 スイッチのように間欠的に動作する装置であれば、動作時に瞬間的に発電すればよい。それが難しい場合でも、こうした装置は機能が単純で駆動に必要な電力が比較的小さいので、前もって発電しておいた電力を小型の蓄電素子に貯蔵しておけば、それで対応できる。これに対し、連続的なモニタリングを行うセンサー端末などの装置では、比較的大きな電力を連続的に、いつでも使いたいというニーズがある。

 これに応えるには、熱や振動、光、電磁波といった複数のエネルギー源に対応し、時と場合によってエネルギー源を切り替えられる発電デバイスが必要になる。これらのエネルギー源は、すべてが周囲の環境に常に存在しているとは限らないからだ。ただしこれまで、こうした高機能の発電デバイスを実現するには、各エネルギー源に個別に対応するデバイスを用意してそれらを複数組み合わせる必要があり、コストが高くなってしまっていた。

 そこで富士通研究所は、光と熱の両方から電力を作り出せるハイブリッド型の発電デバイスを開発した。各種のエネルギー源のうち光と熱に対応した理由は、この2つが「最も身近で応用範囲が広い」(同社)からだと説明する。

p型とn型の接続切り替え回路を集積

 富士通研究所が開発したのは、光電池と熱電素子という2つの機能を切り替えられる発電デバイスである。デバイスの構造自体は、一般的な太陽電池に近い。すなわち、基板上にp型半導体材料とn型半導体材料の積層構造を作り込んだものだ(図1)。上面から見ると、長方形のpn積層構造が数多く、互いの長辺を隣り合わせにして並んでいる。一般的な太陽電池との違いは、p型半導体とn型半導体の電気的な接続を「並列」と「直列」の2通りに切り替える回路を組み込んだことにある。

図1 図1 光発電と熱発電を回路的に切り替える 基板上にp型とn型の半導体材料を積層したデバイスである。積層構造を数多く、互いの長辺が隣り合うように並べてある。2種類の半導体材料の電気的な接続を、(a)に示した2つの状態で切り替えることで、光と熱という異なるエネルギー源で発電する。(b)に示したのはこのデバイスの断面構造である。出典:富士通研究所

 光電池として機能させる場合は、並列接続に切り替える。すると、隣り合う積層構造のうち、同種の半導体材料の領域同士が電気的に接続される。p型はp型同士、n型はn型同士という具合だ。このときデバイス全体は、電気的に見るとpn接合型のフォトダイオードと等価になる。光が入射するとpn接合部に起電力が発生するので、p型とn型それぞれに電極を取り付けておけばその電力を取り出せる。

 一方で、熱電素子として機能させる場合は、直列接続に切り替えればよい。すると、隣り合って並ぶ2つのp型領域のうち、一方の領域の短辺がもう一方の領域の反対側(対向する側)の短辺に電気的に接続される。この状態を電気的に見れば、一般的な熱電素子と等価である。対向して両側に並ぶ短辺の間に温度差があれば、起電力が生じる。なお並列/直列の回路の切り替えは、トランジスタをスイッチとして利用することで実現可能だ。

 大きさが4cm×5cm程度のデバイスを試作したところ、光発電時に0.021mW/cm2が得られた(エアマス(AM)が1.5、100mW/cm2のとき)。熱発電時の出力は0.016nWである(温度差が52Kのとき)。今回は原理確認のための試作品で、熱電素子を4つ分しか作り込んでいないのでわずかな発電量しか得られていないが、通常は数百個以上の素子を集積するという。なお試作品に使った材料は、p型がP3HT(ポリ-3-ヘキシルチオフェン)、n型がPCBM(フェニルC61酪酸メチルエステル)、基板が石英である。

 富士通研究所によると、例えば病室で患者に取り付けたセンサーで体温や血圧、心音などを計測し、その結果を監視するという用途において、光もしくは熱のいずれか一方でしか発電できない従来のデバイスを使うと、エネルギー源として光と熱の両方が存在しているにも関わらず十分なエネルギーを確保できない場合があった。今回のハイブリッド型デバイスであれば、必要に応じて2つのエネルギー源の両方から補うことが可能だという。

 富士通研究所はこうした応用を視野に入れ、先に述べた原理確認用の試作品とは別に、ウエアラブルな(身に着けられる)試作品も開発した。ポリイミドのフィルムの上に、光電池/熱電素子として機能する前述の半導体層を成膜し、透明なフィルムで封止したものだ(図2)。

図2 図2 フレキシブル基板に発電素デバイスを形成 ポリイミドのフィルム上に、エネルギー源を光と熱のいずれかに切り替えて発電できるハイブリッド型の素子を形成した。大きさは5cm角程度である。ただし、実際に発電に寄与する領域は、この寸法よりも若干小さくなる。出典:富士通研究所

 これを人体に取り付ければ、光の照射が常に得られるとは限らない環境でも発電が可能になる。「フレキシブルな基板上に作成したハイブリッド型の発電デバイスは、ウエアラブルなヘルスケア装置の実現に大変有効である」(同社)。

 同社は今後、今回のハイブリッド型デバイスの性能向上に取り組むとともに、量産技術の開発を進め、2015年ころの実用化を目指す。

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