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【ESC 2011】IBMが語る電気自動車「シボレー・ボルト」のソフトウェア開発組み込み開発

新型の電気自動車向けのソフトウェアを開発するだけでも難しいことだが、100個のECUを内蔵し、1000万行のコードを動かすとなると、開発期間は際限なく延びていくだろう。General Motorsの「シボレー・ボルト」の開発ではどのような結果になったのだろうか。

» 2011年05月09日 21時35分 公開
[Rick Merritt,EE Times]

 近年、車載システムの設計は複雑さを増し、搭載されるソフトウェアの行数も劇的に増加している。General Motors(GM)のプラグインハイブリッド車「Chevrolet Volt(シボレー・ボルト)」*1)に向けて組み込みシステムの開発設計を支援したIBMが、ソフトウェア開発の実際を語った。

*1)Chevrolet Voltは、2010年12月にGMが出荷を開始した5ドアハッチバック型のプラグインハイブリッド車。

 組み込み機器関連の開発者会議「Embedded Systems Conference 2011(ESC 2011)」(2011年5月2日〜5日に米カリフォルニア州シリコンバレーで開催)の基調講演でIBMが必要性を訴えたのは、統一されたツールと開発メソッドである。

 IBM RationalでComplex and Embedded Systems担当バイスプレジデントを務めるメグ・セルフェ(Meg Selfe)氏(図1)は、「車載システムではソフトウェアの利用規模が天文学的に大きくなっており、ソフトウェアは車載システム設計における最も戦略的な資産になりつつある」と語る。IBM Rationalは、IBMが2003年にUnified Modeling LanguageのパイオニアであるRational softwareを買収したことによって誕生したIBMのソフトウェア開発部門である。

ALT 図1 メル・セルフェ氏 IBM RationalでComplex and Embedded Systems担当バイスプレジデントを務める。GMとDelphiでシステムエンジニアを務めた経歴を持つ。

開発期間を1/2に短縮

 セルフェ氏は、「当社が設計プロセスの合理化を支援したことで、GMは、従来60カ月を要していた自動車の設計サイクルを短縮し、29カ月という短期間での市場投入を実現した」と述べている。シボレー・ボルトが新しい型のバッテリパックや駆動ユニット、キャビンエレクトロニクスを搭載したことを考えると、開発期間を短縮できたことがいかに画期的だったかが分かる。

 同氏は、「GMは特に、開発期間の短縮に注力した。なぜなら、GMは生死を分ける重要な時期にあったからだ。GMは、再起をかけてこの課題に取り組んだ*2)」と述べている

*2)GMは2009年6月に米国連邦倒産法第11章(チャプター11)の適用を申請した。負債総額は1728億ドル。

 IBMで現在の役職に就く以前に、GMとDelphiでシステムエンジニアを務めた経歴を持つセルフェ氏は、「GMは瀕死の状態を経験したからこそ、従来のエンジニアリング手法の変革の必要性を痛感し、最も優れたエンジニア1000人を結集した」と語る。

 GMはシボレー・ボルトの開発にあたり、設計に必要なツールやプロセスの合理化に向け、製品開発プラットフォームを開発することから始めた。具体的には、何千ものツールやプロセスの中から最適な組み合わせを見つけ出すために、厳しい選別を続けた。

 セルフェ氏は、当時の状況を「まるで、ツールの戦いのようだった」と話す。こうした経緯を経てGMは、シボレー・ボルトの開発チームを統括して新しい開発メソッドを採用するという決断を下し、最終的には開発メンバー全員がこの方針に賛同したという。

 新しい開発メソッドで使用することになったツールチェーンの自動化を支援するためのコネクタやラッパーの開発にIBMは携わった。これらツールには、組み込みシステムで必須となる自動コード生成ツールの開発も含まれるという。

 どのぐらい複雑な作業だったのだろうか。シボレー・ボルトは約100個のコントロールユニット(ECU)を内蔵し、その上で合わせて1000万行以上のコードが動く。これまでの同社の自動車で動いていたコードは、2005年モデルでは240万行、2009年モデルでは600万行であった。コードの行数が飛躍的に増加したことが分かる。

 その一方で、600以上あったテスト手順を約400に削減したという。しかし、セルフェ氏は「現在でもなお、テストに時間と手間をかけすぎている」と言う。

自動車1台ごとにIPアドレスを振る

 今後、車載ソフトウェアの重要性がより高まることを受け、GMはシボレー・ボルトに1台ずつ固有のIPアドレスを付与した。

ALT 図2 ソフトウェアに対する累積投資額 青色はGM社内の開発、黄色は、社外開発者への開発委託、オレンジ色は既製のソフトウェアの購入。IBMの分析による。

 セルフェ氏は、「IPアドレスは現時点では、充電ステーションなど、限られた用途にしか利用されていない。しかし、搭載するソフトウェアの拡大に伴い、将来的にはより多くの用途に使われるだろう」と述べている。

 同氏によれば「GMは最終的には社内での開発を重視した(特にソフトウェアの開発においては)」(図2)。「社内開発にはリスクがあった。難しい作業だったが、達成した」。

 IBMはシボレー・ボルトの開発に関する動画をYouTube上に公開している。

【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】

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