カリフォルニア大学バークレー校の研究チームが、グラフェンを利用した光変調器を開発した。現在一般的なIII-V族半導体材料で作製した光変調器に比べて、大幅に小さく、高速に動作でき、コストも低くできるという。
「この発明によって、将来的には映画をほんの数秒でスマートフォンにダウンロードできるようになるだろう」――。カリフォルニア大学バークレー校に拠点を置く米国立科学財団(NSF)のNanoscale Science and Engineering Center(NSEC)の研究チームが、グラフェンを利用した光変調器を発表した。「世界最小」をうたう。同大学教授のXiang Zhang氏が率いる研究チームの成果である。
現在のところ、光変調器は主にシステム間の長距離にわたる高速通信に使われている。光変調器を電気信号で駆動し、レーザー光のオン/オフを切り替えることで、光信号に情報を載せる方式だ。この高速光通信の応用範囲は、今後大きく広がると期待されている。実際に、比較的短距離の用途にも使われ始めており、将来はモバイル機器においても大容量ファイルの転送速度を高める目的で利用される可能性がある。
ただし、課題もある。現在の光変調器は、InGaAs(インジウム・ガリウム・ヒ素)のようなIII-V族の化合物半導体材料を用いたディスクリート素子であり、サイズが大きく、コストも高い。これに対し、C(炭素)だけからなるシート状の材料であるグラフェンを使って変調器を作製すれば、「高速光通信の機能をモバイル機器用のチップに集積できるほど小さく、安価にできる」とZhang教授は説明する。
NSECの研究チームは、グラフェンを使って大きさが25μm2と非常に小さい変調器を作製した。III-V族半導体材料で作製した一般的な光変調器の1/100の大きさだという。このグラフェン変調器は、グラフェン上に形成した光導波路に交流電界を印加することで光信号に変調をかける(図1)。光変調器を駆動する電気信号の山と谷のピーク付近では、電界の影響でグラフェンが不透明になり、レーザー光が導波路を通り抜けられなくなる。つまりオフ状態になる。一方、駆動信号の山と谷の中間の範囲では、グラフェンは透明になり、レーザー光を透過させる。つまりオン状態になるという仕組みだ。
同研究チームは、グラフェン光変調器の特長として、サイズが小さいことに加え、III-V族半導体材料を用いる従来の変調器に比べて100倍以上も広い波長範囲で動作可能なことを挙げている。グラフェンは幅広い波長範囲の光を吸収できるからだ。具体的には、紫外から赤外まで数千nmを超える波長範囲に及ぶ。III-V族半導体を使う現在の光変調器では、対応可能な波長領域は10nmにとどまっている。変調速度については、試作品では1GHzを達成した。ただしZhang教授によれば、理論的には単一のグラフェン変調器で変調速度を500GHzまで高められる可能性があるという。
同教授は、「グラフェンを使えば、変調器を劇的に小型化できる上、変調速度を現在の技術に比べて10倍まで高めることが可能だ」と説明している。
なお今回のプロジェクトは、NSFのCenter for Scalable and Integrated Nano-Manufacturingと、米エネルギー省(DoE:Department of Energy)のローレンス・バークレー国立研究所のBasic Energy Scienceプログラムから資金提供を受けて実施された。
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