機器のディスプレイに映し出されるライブ映像の上に、付加情報を重ね描きして見せる「拡張現実(Augmented Reality:AR)」技術。すでに戦闘機のフロントガラスに情報を投影するヘッドアップディスプレイ(HUD)などの軍事用途で実用化され、有用性が証明されている。そして現在、民生機器の分野でもAR技術が普及しつつある。その代表格が、GPS機能を搭載したカメラ付き携帯電話機である。
2011年には、アップルやグーグルのほか、十数社あまりの新興企業が、AR技術を利用して商業情報を流すアプリケーションやシステムを投入する計画だ。例えば、ショッピングモールでどの店にどんなセール品があるのかを消費者の端末に表示するといった具合である。インテルのベンチャー投資部門であるインテルキャピタルも、ARプラットフォームを専門として開発者コミュニティにオンラインツールを提供するオランダのLayarに投資し、流行に便乗して収益を上げようとしている。
しかし、AR技術のキラーアプリケーションになるのは、ソーシャルネットワーキングかもしれない。一例を挙げよう。日本の頓智ドットが開発する「セカイカメラ(Sekai Camera)」では、ユーザーが興味を持った位置情報(POI:Point of Interest)に独自のAR情報を投稿できる(図1)。例えば、アイスクリーム店に来た人が携帯電話機のカメラを店の正面に向ければ、ピスタチオ味のソフトクリームを勧めるメッセージをその空間に仮想的に書き込んで残すことができる。セカイカメラを使う別のユーザーが携帯電話機のカメラをこの店に向けると、ピスタチオ味が気に入ったというその人のメッセージを読むことができる。
2010年の年末商戦、家電量販店は3D対応テレビの在庫を大量に確保した。ただし、3Dテレビの普及は業界が期待したほどは進んでいない。3D対応コンテンツが限られていることや、左右の目に映し出す映像を高速に切り替えるための3D眼鏡を装着しなければならず、画面が暗く感じられることなどが理由だろう。3Dテレビ関連の市場で、唯一ユーザーの取り込みが好調なのはホームシアター市場で、市場調査会社であるディスプレイサーチは、ホームシアター用途での3Dテレビの出荷数が、2010年に320万台に達すると予測している。
一方、同社は同じ予測の中で、眼鏡不要で立体映像を楽しめる、裸眼立体視ディスプレイが市場に投入されるのに伴い、2014年には3Dテレビの出荷台数が9000万台以上に達すると見込んでいる。薄型ディスプレイ搭載テレビの販売台数のうち、3D対応機種が占める割合は、現時点では2%ほどだが、裸眼視対応機種の投入効果で2014年には41%に達すると予測する。なお、すでに日本では東芝が眼鏡不要の3Dテレビを発売済みである。
3D技術の普及は、テレビよりもモバイル機器が先行することになりそうだ。市場には、例えば裸眼立体ディスプレイを搭載した富士フイルムの3D対応デジタルカメラなどがすでにある(図2)。2014年に3Dテレビを購入する消費者の多くは、こうしたモバイル機器で3Dをすでに経験済みということになるだろう。市場調査会社であるIn-Statは、モバイル機器用途として出荷される裸眼立体ディスプレイは2014年に6000万個を超えると予測している。
2011年には、3D映像を「出力」するテレビやゲーム機、携帯電話機といった機器に加えて、3D情報を「入力」する技術も普及が進むと予測される(図3)。3D光計測と呼ばれる技術である。対象物にしま状の光を照射し、反射光の歪曲度合いを計測することで、対象物の寸法や形状を推計する。この手法によって、現実世界の対象物を自動的に3次元モデルとして取り込むことが可能だ。
高精度の3次元モデルを作成する場合、従来の技術では、手作業による計測やレーザーを使用した高価な3次元距離測定システムが必要だった。テキサス・インスツルメンツ(TI)などの企業は現在、MEMSを搭載した小型ピコプロジェクタの開発に取り組んでいる。これらのピコプロジェクタは、構造化照明(Structured Light Illumination:SLI)技術を利用することで、3次元モデルの作成に必要な処理を従来の技術に比べて低いコストで実行できるという。SLI技術は、対象物にマトリクス状の光を照射して自動的に3次元センシングを行い、反射光の歪曲から対象物の3次元寸法を自動的に導き出す。
3D光計測のアプリケーションは、3Dビデオゲームの開発システムから、離れた場所からのでも人物を特定できる特殊な指紋スキャナに至るまで、多岐にわたる。例えば、米国の半導体企業であるSeikowaveは、医療診断向けにSLI技術を活用した赤外線MEMSプロジェクタを開発した。このプロジェクタを使えば、呼吸器疾患がある患者の胸部の動きを非侵襲で(生体を外科的に傷付けずに)モニタリングでき、医療検査中に患者の状態を把握する用途などに使える。
電気・電子製品のリサイクルを推進する取り組みが進んでいる。しかし、究極の目標となるのは、生物によって完全に分解できるエレクトロニクス製品の実現だ(図4)。
米国のスタンフォード大学などの機関が設計している生物分解性を備えた電子回路は、インプラント(体内埋め込み)型の医療システムによる薬物送達(ドラッグデリバリー)の制御回路に応用できる可能性がある。そうした用途では、有機エレクトロニクス回路の処理速度の遅さは障害にならない。例えば、STマイクロエレクトロニクスとスイスのDebiotechの共同チームは、インスリンを自動注入するナノポンプを複数品種すでに設計済みだ。生物分解性を備える品種は、数カ月の耐用期間を想定しており、その期間にわたって動作した後は、分解されて消滅する。
生物分解性インプラントが確立されるとともに、有機回路全般における処理速度の向上が進めば、いつの日か、環境中で堆肥化できるエレクトロニクス製品が当たり前になるかもしれない。
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