給電機器の内部で、ホストマイコンが載る領域とPoEの高電圧を扱う領域の間の絶縁方法を工夫することで、外付け部品コストを低減できるようにした。
リニアテクノロジーは、イーサネットケーブルを介して電力を供給するPoE(Power over Ethernet)技術に対応する機器の給電側(PSE:Power Sourcing Equipment)用チップセット「LTC4270/LTC4271」を発売した。機器にPoE機能を組み込む際のコストと実装面積を低減できる工夫を盛り込んだことが特長だ(図1)。さらに、供給電力の最大値が異なる3つのグレードを用意しており、最上グレード品で最大90Wと大きい電力を供給できることも特長である。「既存のPoEチップでは供給可能電力の制約によって対応できなかった分野にも、PoEの用途を広げられる。例えば、従来は固定焦点しか実現できなかった監視カメラに、ズームやパンの機能を搭載できる可能性がある」(同社)。
給電ポートを12ポート備えた2チップ構成のチップセットである。具体的には、イーサネットケーブルを介して受電側機器(PD:Powered Device)につながるLTC4270と、I2Cインタフェース経由でPSEのホストマイコンに接続するLTC4271で構成した。コストと実装面積を低減できるのは、この2枚のチップセットの間に絶縁トランスを挿入することで、給電用の電源とホストマイコンの電気的な絶縁を確保できるからだ(図2)。
リニアテクノロジーによれば、同社既存品を含む1チップタイプの一般的なPoE用チップは、I2Cインタフェースとホストマイコンの間にフォトカプラーを挿入することで絶縁をとっていたという(図3)。例えば、同社既存の1チップタイプの「LTC4259A」は4ポート品で、2素子入りのフォトカプラーを2個外付けする必要があった。仮にこのLTC4259Aで12ポートに対応するには、この回路を3つ分用意しなければならないので、2素子入りのフォトカプラーの所要数は6個になる。その6個の部品コストは7米ドル程度になるという。
これに対し今回のチップセットでは、チップセット間に挿入した絶縁トランスによって絶縁が確保されるので、I2Cインタフェースにフォトカプラーを外付けする必要はない。そのままホストマイコンに接続できる。しかも絶縁トランスは、「100Base-Tのデータ伝送に使うデュアルタイプの安価な品種を利用でき、部品コストは0.2米ドルで済む」(同社)。
部品コストを低減できる要因はもう1つある。I2Cインタフェースに外付けしたフォトカプラーで絶縁する従来の方式では、PSEチップ自体はイーサネットケーブルに供給する高電圧を扱う領域から絶縁されていない。そのため、PoE用チップのロジック部を駆動するための電源として、PSEの他の回路領域から絶縁した3.3Vの電源を別に用意する必要があった。今回のチップセットではこれが不要になる。2個のチップのうち、3.3Vの電源を使うのはI2Cインタフェースを集積するLTC4271だけであり、このチップは絶縁トランスによって高電圧領域から既に絶縁されている。従って、PSEの他の回路領域で使う3.3Vの電源を、絶縁を施さずにそのままPoEチップに供給できるというわけだ。
実装面積も低減できる。パッケージの大きさは、LTC4270が7mm×8mm、LTC4271が4mm×4mm。これに対し先に既存品の例として挙げた同社の4ポート品は15mm×10mmで、今回のチップセットと同等の12ポートを実装するにはこれが3個必要だった。
PDへの供給可能電力については、3つのグレードを用意した(図4)。最大90Wの「グレードA」と、最大25.5Wの「グレードB」、最大13Wの「グレードC」である。最大90WのグレードAは、リニアテクノロジー独自のPoE仕様で、35〜90Wに対応する「LTPoE++」を採用した。3グレードともに、IEEEが定めるPoEの標準規格で最大13W対応の「IEEE 802.3af」に準拠する。またグレードAおよびBは、その上位規格で最大25W対応の「IEEE 802.3at(PoE+)」にも準拠している。すなわち、例えばグレードAの品種をPSEに搭載し、最大13Wや最大25WのPoE規格に準拠したPDと組み合わせて使うことも可能である。
なお同社は、LTPoE++準拠のPD用チップの投入については明確なコメントを避けており、「今回のPSE用チップセットは、IEEE規格にしか準拠していないPD用チップと組み合わせる使い方でも、絶縁の工夫によるコストの低減というメリットを享受できる」(同社)と述べるにとどまっている。ただし、最大90WというLTPoE++の利点を生かすには、PD用チップの準拠品が不可欠だ。近い将来に製品化されることを期待したい。
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