ツェナーダイオードやバリスタを利用する場合に比べて、部品点数と実装面積を削減できるというメリットを訴求する。価格についても、既存の保護素子より低くできる可能性があるという。
村田製作所は、1005サイズ(1.0mm×1.0mm×0.5mm)と小型ながら定格電圧が50Vと高いESD(静電気放電)保護素子を試作し、2011年5月18〜20日の日程で開催されている自動車技術の展示会「人とくるまのテクノロジー展2011」(パシフィコ横浜)に出品した(図1)。IEC61000-4-2が規定する15kVの接触放電に耐えられ、同条件において保護対象の回路に印加される過電圧のピーク値を300V程度まで抑制できるという。
自動車の電装機器などに組み込んで使うESD保護素子である。具体的には、保護対象の電子回路につながる信号線と接地電位の間に挿入する。ESDが信号線に流れ込むとこの素子の抵抗値が急激に低下し、ESDを接地電位に逃すことで電子回路を保護する仕組みだ。
この素子の構造自体は、積層セラミックコンデンサと同じである。ただし、使用する材料は異なる(図2)。「リード付きコンデンサで使うチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)系のセラミックス材料を用いた。この材料で積層構造を形成し、その構造を微細化したところ、このようにESDに応答する面白い特性が得られた」(同社の説明員)という(図3)。
ESDに対するこのような応答動作そのものは、ESD保護に一般に使われるツェナーダイオードやバリスタと変わらない。ただし、「ツェナーダイオードやバリスタでは、1005サイズで50Vの定格を確保することは不可能だ。例えばバリスタでは2012サイズ(2.0mm×1.2mm)が一般的である。こうした部品の原価はサイズで決まることが多く、大型化すれば価格も高くなってしまう」(同説明員)。
さらに、村田製作所が試作した素子は、1000pF(1kHz、1Vにおいて)相当の静電容量を確保しているという特長もある。そのためESD印加時の保護機能に加えて、平常時に信号線に重畳された雑音を除去する役割も果たす。「ツェナーダイオードやバリスタを使う場合は、通常、雑音除去の目的で信号線と接地の間にコンデンサも挿入する。試作した素子を使えば、このコンデンサが不要になる。部品点数と実装面積を削減できるというメリットがある」(同説明員)(図4)。
ただ、ESD印加時に抵抗値が急激に減少し始める電圧値(ツェナーダイオードとバリスタにおける「ツェナー電圧」および「バリスタ電圧」に相当する)については、「約130Vと比較的高い」(同説明員)。すなわち素子自体のESD吸収性能は、ツェナーダイオードやバリスタに比べると低くなる。「ESD保護素子のユーザーに検討してもらったところ、回路全体では十分な保護性能を確保できるという評価が得られている」(同説明員)。
なお、このESD保護素子の製品化については、現時点では未定だとしている。
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