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第2回 災害時にも途切れない携帯へ、未来の無線通信システムの姿とはエレクトロニクスで創る安心・安全の社会システム 無線通信技術(1/2 ページ)

1980年代に初めて実用化された携帯電話は、今や日々の生活になくてはならない社会インフラになった。ところが、2011年3月11日に発生した東日本大震災では、地震発生直後から携帯電話通信網を使った音声通話がつながりにくい状態が続いてしまった。災害時にも途切れない無線通信システムをいかに構築するか……。大きな挑戦だ。

» 2011年05月30日 07時00分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

 本連載の第1回では、東日本大震災の被災地にインターネット接続用の無線ルータを設置した情報通信研究機構(NICT)の取り組みを紹介した。第2回となる今回は、引き続き、無線通信システムに焦点を当てる。

 われわれに最も身近な無線通信システムは、携帯電話機やスマートフォンに使われている携帯電話通信だろう。1980年代に初めて実用化された携帯電話は、今や日々の生活になくてはならない社会インフラである。ところが、2011年3月11日に発生した東日本大震災では、地震発生直後から携帯電話通信網を使った音声通話がつながりにくい状態が続いてしまった。

 災害時にも途切れない無線通信システムをいかに構築するか……。大きな挑戦だ。携帯電話機やスマートフォン、タブレットPCをはじめ、あらゆる機器に不可欠な存在になりつつある無線通信技術の未来を、電気通信大学の先端ワイヤレスコミュニケーション研究センター(AWCC)の准教授を務める藤井威生氏(図1)に聞いた。

 AWCCは、ワイヤレス情報通信に特化した先端研究機関である。藤井氏は現在、本連載第1回にも紹介したコグニティブ無線技術や無線アドホックネットワーク、次世代携帯電話に関する研究を進めている。

図1 図1 電気通信大学の先端ワイヤレスコミュニケーション研究センター(AWCC)の准教授を務める藤井威生氏

EE Times Japan(EETJ) 東日本大震災の発生後しばらくの時間、首都圏でも携帯電話の音声通話がつながりにくい状態が続いた。この理由を教えてほしい。また、どのような対策が考えられるのか。

藤井氏 一般的に、2つの理由が考えられる。1つは、携帯電話の基地局に多くの端末が接続しようとして、干渉が発生し、「パンク」してしまったこと。もう1つは、基地局のバックボーンの有線ネットワークにある交換機の処理能力を超えてしまったことである。通話が集中するなどして、交換機にアクセスが集中すると、交換機の処理能力を超えないように、通信事業者はアクセスを規制する。すると、携帯電話の音声通話がつながりにくくなってしまう。今回の震災時には、この2つが複合的に発生したのではないか。

 音声通話は特に、データ通信とは異なり、安定して「声」という情報を伝える必要がある。通話品質を保つために、ある程度の周波数帯域を確保する必要があるため、携帯電話通信網に対する負担が大きい。一般に、今回の震災のような非常時には、通常時の何倍ものトラフィックが発生する。非常時のトラフィックに対応するだけの回線余裕を持つことは、コストの観点で難しいのではないだろうか。

 対策としては、トラフィックが急増して音声通話がつながりにくくなったときに例えば、電話があったことだけでも通話先に伝えるといった機能を基地局に持たせたりできるのではないだろうか。さらに、1つの端末がそのときに最適な通信事業者を使えるように融通するというシステムも、1つの方法だ。銀行のキャッシュカードは、どの銀行の現金自動預払機(ATM)でも使える。そんなイメージである。ただこの方法は、現在のところ、KDDIだけ異なる通信方式を採用しているので難しい。

 まだまだ研究段階だが、トラフィックが急増したときに、使っていない周波数帯域を間借りしたり、使用する周波数帯域を広げることでトラフィックの増加に対処する手法も、アイデアとして提案されている。

電波資源をいかに使うか

EETJ 通信方式や変調方式、利用周波数を周囲の電波環境に応じて動的に変えるというコグニティブ無線技術の概念を導入すれば、無線通信システムの信頼性はさらに向上するのではないだろうか。

藤井氏 上に説明した対策方法の次のステップとして、将来的に議論が盛んになる可能性はある。コグニティブ無線の概念そのものは、1990年代に提案されていたが、その当時は現在ほど電波資源はひっ迫していなかったため、研究開発は進まなかった。世界各国で研究開発が始まったのは、2004年からだ。

 コグニティブ無線は、周波数を共用しようというアイデアが出発点にある。現在、テレビ放送や携帯電話通信といった各サービスに割り当てられた周波数帯域は、がちっと固定されている。ところが、都市部においても、瞬間的に見ると割り当てられた周波数の20%しか有効に使われていないとされている。これでは、もったいない。

 最近の話題でいうと、アナログ放送の停波によって空き周波数が生まれた。ただ、アナログ放送停波後の空いた周波数が埋まってしまうと、この次に空く予定の周波数はない。このままでは、無線を使ったサービスの多様化に、対応しきれなくなってしまう。

 これまでは、周波数をいかに確保するかという議論が主だったが、今後は周波数をいかにうまく使うかという議論に移る必要があるだろう。現在はがっちりと固定されている利用周波数を、ダイナミックに割り当てられるようになれば、災害時にトラフィックが増大し、周波数帯域が足りなくなったとき、帯域幅を一気に増やすということも可能になる。

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