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Appleの最新プロセッサ「A5」、倍増したチップ面積の謎に迫る(後編)製品解剖 プロセッサ/マイコン(1/4 ページ)

「iPad 2」に搭載されたA5プロセッサは、「iPad」のA4プロセッサに比べてチップ面積が34mm2も増えた。この増加分はA4のチップ面積の64%に相当する。AppleはCPUとGPUをデュアル化しただけでなく、他にも差別化につながる回路を組み込んだに違いない。

» 2011年06月03日 16時46分 公開

前編からの続き

さあ、次はわれわれが考えをめぐらせる番だ。もし皆さんがAppleだったら、どんな戦略を採るだろうか? A5には、デュアルコア化による「CPU+GPU+調停回路」の増分の他、メモリ制御やI/Oをはじめとした所要のIPブロック群を収容してもなお、まだたくさんの回路を収容できる面積がある。この新たに確保された回路領域を、皆さんならどのように使うだろうか?

いま一度、過去を振り返る

図 Apple A5チップのダイ写真 ARMのデュアルコアを搭載している。チップ面積は前世代のA4の2.3倍と大きい。出典:Chipworks

 この問い掛けに答えるため、いま一度、過去を振り返ることろから始めよう。

 先に述べたように、Appleは2008年に組み込みプロセッサベンダーのP.A. Semiを買収している。それ以来、同社はあらゆる機会を捉えて、半導体設計の領域にこのように大胆に進出する理由を説明してきた。いわく、製品を競合他社から「さらに差別化する」ためだという。直近では2011年第1四半期の収支報告会において、こうした場面があった。同社COO(最高執行責任者)のTim Cook氏が次のように述べたのである。「設計面でのAppleの見地はこうだ。つまり、自社で部品を設計するのは、市場で調達可能な部品では実現できないような革新を起こせると判断した場合である。直近の事例はA4チップだ。ただし当社はA4で、ファブ(半導体製造工場)そのものに投資したり、自社でファブを建造したりする必要があるとは思わなかった。なぜなら、製造については市場に複数の良い選択肢が存在していたからである。一方で、設計の外部調達については、良い選択肢がなかった。それゆえに当社は、設計にかなり力を注いでいる」(Cook氏)(参考リンク:株式市場の情報サイト「Seeking Alpha」に掲載された、Appleの当該収支報告会におけるCook氏のコメントの書き起こし)。

 それでは果たして、AppleのA4プロセッサは「その他大勢」との差別化を実現できたのだろうか? A4では設計に費やせる時間の制約から、かなりのIPコアを外部から調達することになるだろうというのが業界の一致した見解だった。実際にA4を搭載したデバイスが市場に出回って、私たちの目に触れたA4の分析リポートを信じる限り、A4はその他大勢から傑出しているとは言い難い。本稿の前編でも述べたように、A4はブロックレベルで見ればSamsung ElectronicsのプロセッサであるS5PC110とかなり似通っている。実際に、これまでに報告されている分析では、A4とS5PC110の違いは2個のアナログブロックだけだという。

 ただし、2011年1月の報道では、AppleがA4にビデオアクセラレータ回路を集積していた可能性が指摘されている(Apple関連の情報サイトである「AppleInsider」の当該記事)。もしこれが事実なら、次のような疑問が湧く。そのようなアクセラレータを搭載した背景は、AppleがiOSデバイスでAdobe Systems社の「Adobe Flash」に対してとっているスタンスに、何か関係があるのだろうか? しかし、そのようなアクセラレータはデジタルブロックに分類されるはずだ。ならばそのアクセラレータは、A4だけでなくS5PC110にも搭載されているということだろうか?

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