今回は、水晶振動子を駆動する発振回路に注目しましょう。水晶振動子を安定して動作させる発振回路を設計するには、発振回路の動作原理や特性を理解しておく必要があります。
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本連載ではこれまで、水晶デバイスの数多くの用途のうち、最も広く使われている基準信号源(クロック)に焦点を当て、水晶振動子の基本原理や等価回路を紹介してきました。第5回では、水晶振動子を等価回路で表現し、振動子の仕組みを説明しました。第6回では、第5回の内容を踏まえ、水晶振動子を使うときに知っておくべきことを解説しました。
今回は、水晶振動子を駆動する発振回路に注目しましょう。水晶振動子を安定して動作させる発振回路を設計するには、発振回路の動作原理や特性を理解しておく必要があります。
発振回路の動作原理は、振り子の動作と対比して考えることができます。図1に示したような振り子において、同じ振幅で、規則正しい振り子の動作を維持させようとすると、まず振れ幅が最大の位置と時点を検出する必要があります。その次に、一定の力を規則正しく加える動作を繰り返していけば、振れ幅が最大の位置と時点は変化せず、維持できます。
水晶デバイスの動作と対比すると、振り子は水晶振動子に相当し、振動の検出と一定の力を規則正しく加える動作は、帰還経路を持った増幅回路(発振回路)の動作に相当します。帰還増幅回路を使って、回路の雑音を種に発振を成長させ、安定状態を保ちます(図2)。
もう少しイメージしやすいように説明しましょう。そもそも発振には、「起動」と「持続」という2つの状態が存在します。自動車を例にすると、起動は自動車のエンジンをかけること、持続は自動車が走り続けている状態に相当します。
損失成分(抵抗)の無い共振回路は、永久に発振し続けます。ところが、現実には、共振回路を構成するインダクタとキャパシタに抵抗成分がありますので、エネルギーを損失して、やがては発振が止まってしまいます。インダクタとキャパシタの抵抗成分を負の抵抗で打ち消してやれば、共振回路は発振し続けるはずです。抵抗成分を負の抵抗で打ち消す役割を担うのが、帰還経路を持った増幅回路というわけです。
帰還経路を持つ増幅回路の働きは、3つに分解できます。1つ目は、種信号を生成すること。2つ目は、回路の出力信号をフィードバックすること。3つ目は、フィードバックしたこの信号を増幅することです。「回路の出力信号が減衰しないこと」、「フードバックした信号と増幅回路の入力信号の位相差が360度の整数倍になること」という条件に合致するよう、信号をフィードバック制御します。フィードバックと増幅を繰り返すうち、発振周波数の信号成分だけが増幅されて、安定した出力が得られることになります。
視点を変えると、水晶振動子の振動現象が外部から観察できるということは、外部に振動エネルギーを放出していることを意味します。ですから、振動を維持するには、失われたエネルギーを補充する増幅回路が必要とも説明できるでしょう。
帰還経路を持った増幅回路としては、コルピッツ型発振回路が一般的で、図3のような構成になります。この発振回路は、水晶振動子の両端に発生した電圧を、コンデンサC1とC2に分圧し、C1を入力側に接続することで、振幅を検出します。一方、C2を出力側に接続することで、水晶振動子に一定の力を加え、振幅を持続させます。
図4は、コルピッツ型発振回路が発振している状態における等価回路です。水晶振動子の側から発振回路を見ると、回路側は等価入力容量(Ci)と、等価入力抵抗(Ri)の直列回路として表現できます。ここで、等価入力容量は、これまで説明してきた負荷容量(CL)に相当します。一方の等価入力抵抗は、水晶振動子の等価直列抵抗(Re)による振動の減衰を打ち消すために、負の抵抗値を持ちます。
図4からも分かるように、水晶振動子側は、誘導性である実効インダクタンスLeと等価直列抵抗(Re)の直列回路で表現できます。発振するための位相条件と振幅条件は、第5回の図3に紹介した通りです。図5に、第5回の図3を再掲しました。確実な発振の立ち上がりを得るために、実際の回路では、トランジスタの特性ばらつきや、回路の配線引き回しの影響を考慮する必要があることに注意しましょう。
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