アプリケーションはエンドユーザーが直接触れるソフトウェアであり、その種類や品質は端的にプラットフォームの評価につながります。Googleはこの点で非常に高いアドバンテージを持っています。また、もともとはAppleが始めましたが、いわゆるStoreも充実しており、Java言語を採用しているということで潜在的な開発者数はAppleをはるかにしのぎます。
第11回で述べたように、Androidは音楽・映像配信においてApple陣営に大きく水を空けられています。また、やはりApple製品やWindows Phone7のようなれっきとしたOSベンダーの供給するOSのユーザー体験の秀逸さからすると、Androidは製品として出荷されているものも含めて一歩劣るという評価が一般的になっています(ユーザー体験はひどいと言わざるをえないものの、IBMやSAPとの連携から支持されているBlackBerryは除きます)。それは事実として認めなければいけませんが、しかし将来性という点において最も可能性を持ったプラットフォームであることもまた事実です。タブレットでも独自路線を選んだBlackBerryを供給するRIM(Research In Motion)が、自身のタブレット端末であるPlayBookにおいて(エミュレーションとはいえ)Androidのサポートを発表したことには、それなりの意味があります。その将来性の元となる要素が、ライバルが追い付こうにも追い付けないでいる、Gmailを始めとするGoogleサービスなのです。
AndroidとGoogleサービス、そして最近ではHTML5技術はGoogleがビジネスを推進するための強力な道具であり、Googleはこれらを前面に押し出して自身の戦略を構築しています。それはそれでまっとうな方針であると思いますが、Androidに関しては重い課題が残っています。それはAndroidのセキュリティと互換性です。どちらも、Googleのビジネスに大きく影響する危険性のある要素です。
Android 端末のルート権限が盗まれやすいことが話題になったのは1年ほど前のことです。今では、Androidがセキュリティに弱いということは一般に周知の事実となってしまいました。しかし、実はOS自身の脆弱性という点ではAppleのiOSも万全ではなく、Androidよりも深刻な問題を多く持っているという意見もあります。この状況がすなわちエンドユーザーのセキュリティに関する両OSのイメージにつながらないことには理由があります。それはマーケットの管理方針です。Appleは一貫してAppStoreのアプリケーション登録の際に審査を行っています。そのために、登録に時間がかかったり、時には、ポリシーの変更により突然登録が抹消されるといった事態も起こっています。
一方、Android Marketでは、誰でも審査など受けることなくアプリケーション登録が可能です。開発言語がJava言語ということと相まって、後発でありながら多くのアプリケーション登録数を誇るのはこのためです。しかし、規制を外して得た地位にはやはり代償があり、Android Marketはさまざまな脅威にさらされています。かつては、あるIDで購入したアプリケーションを、ID付きで端末にプリインストールした状態で販売するといったことが横行しました。また、最近では、有料アプリをダウンロードした後に、それをパッケージし直してAndroid Marketに登録するという行為も増えています。
日本の常識的な考え方においてはこのような現象は理解に苦しむかもしれませんが、最近のIT系ではこういった事態に陥ることは珍しくありません。それでは、このような状況を誰が問題視しているかといえば、それは他ならぬGoogleです。折しも、苦難の末に音楽・映像配信を立ち上げたばかりです。Appleの対抗であると胸を張って言えるためには、コンテンツの充実は不可欠です。しかしそれも、有力コンテンツありきの話であり、それらは確固たるセキュリティの上に供給されるのです。そもそも、GoogleはAndroidのオープンソースを利用した端末の互換性の低さや、Androidそのもののアップグレードについての対応の悪さにかなり神経質になっていました。本連載の第11回で述べたとおり、今年のGoogle I/Oにおける新しいアライアンスの発表は、今後、信頼できるAndroid端末を、限られたメンバーで供給することを示していました。ならば、AndroidMarketに関しても、今後は管理が強化されて行くと考えるのが妥当ではないでしょうか。
Androidは、発表当時の誰もが予想し得なかった方向に進んでいるように見えます。しかし、Googleのビジネスを支援するという、Androidの根底にある存在意義を考えたとき、今のAndroidの行き方は時代の流れに適切に立ち向かっているようにも見えます。今後のGoogleのかじ取りに注目したいところです。
金山二郎(かなやま じろう)氏
株式会社イーフロー技術本部長。Java黎明(れいめい)期から組み込みJavaを専門に活動している。10年以上の経験に基づく技術とアイデアを、最近はAndroidプログラムの開発で活用している。
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