電気自動車を語る上で、やはり気になるのは電気代だ。オーナーの運用コストは、ガソリン車と比べてどうなのか。米国の実情を見てみよう。
広大な国土で日々の走行距離が日本と比較すると格段に長い米国では、ガソリン代が家計の大きな負担になっている家庭も多い。近年のガソリン価格の高騰もあり、電気代の低い米国では運用コスト削減という側面の電気自動車のメリットがますます大きくなっている。
大規模な河川を有するワシントン州は、米国で最も水力発電が盛んな地域で、国内でも特に電気代が低い。一方で、ガソリン代の高さは米国でもトップクラスだ。同州で電気自動車が人気を博している背景には、このような事情もある。
オバーグ氏によると、ワシントン州の規準で計算するとテスラ ロードスター、日産リーフともに走行距離1マイル(約1.6km)当たりの電気代は約3米セント。一方、ガソリン車の1マイル当たりのガソリン代は約10米セントという。「最近のガソリン価格の値上がりを考えると、12セント近いかもしれないね。私も妻も車を毎日運転しているから、電気自動車に乗り換えたことでかなり節約になっているよ。しかも毎晩自宅のガレージで充電しているから、翌朝にはいつも満タンの状態にある。ガソリン車とは違い、どこのスタンドに寄ろうかと思案する必要も無い。とても満足しているよ」(同氏)。
オバーグ氏は今、シアトル市内の自宅から10マイル強離れたベルビュー市にある職場までの通勤に電気自動車を使っている。職場のある建物の駐車場には無料の充電スタンドが用意されているが、あまり利用していないという。「毎日の通勤程度の距離なら、毎晩自宅のガレージで充電するだけで十分。しかし、いざという時のために、さまざまな場所に充電スタンドが設置されていることは重要だ。この辺りでは他に、ショッピングモール、映画館、野球場などに充電スタンドが用意されている。これらのように、駐車して長い時間を過ごす場所に充電スタンドがあるのは便利だね」(同氏)。
オバーグ氏の言うように、ワシントン州の中でも特に、上述のChargePoint Americaプログラムの対象となっているベルビュー市とレドモンド市には数多くの充電スタンドが設置されている。しかしこれらの充電スタンドは、日本で主流の急速充電規格「CHAdeMO」方式のスタンドではなく、満充電まで4〜8時間を要するレベル2(240V、15〜30A)の充電スタンドか、120Vの標準電源が多い。ほとんどが無料で利用可能だが、ショッピングモールの駐車場に備え付けの充電スタンドなどでは有料のところもある。価格はまちまちだが、例えばベルビュー市で最も大きなショッピングモールであるベルビュースクエアの充電スタンドは1時間で2米ドルと、家庭での充電コストを考えると法外に高い。これもオバーグ氏が自宅外で充電しない理由の1つになっているという。
また、オバーグ氏が唯一、電気自動車の不満として挙げたのが、充電スタンドがせっかく用意されていても、それを使えないことが多いということだ。「駐車場の充電スタンドの多くが、なぜか身体障害者専用の駐車スペースのすぐ隣など、便利な場所に設置されている。このため、“電気自動車専用”と書いてあるにもかかわらず、ガソリン車が停められていることが多いんだ。一度、駐車している人を見かけて注意したんだが、“そんなことは知らないね”で済まされてしまったよ」(同氏)。
身体障害者専用の駐車スペースには健常者が駐車できないようにする罰則が定められているのに対し、電気自動車専用の駐車スペースはそうした法規制が無く、利用者のマナー違反を防ぐのは困難だ。電気自動車のユーザー団体は、ショッピングモールなどに対して電気自動車の駐車スペースをもう少し奥まった不便な場所に移動するように要請しているが、反応は芳しくないという。
ユーザーコミュニティー内ではこの状況を皮肉った表現も生まれている。ガソリン車が採用している内燃機関(Internal Combustion Engine:ICE)を指して、「充電スタンドがICEされていたよ(charging station was ICEd)」といった具合だ。
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