まずは自分で勉強し、分からないことがあったら聞く――。ベテラン世代のエンジニアにとっては当たり前であるこの考え方も、いまどき世代には通用しないこともあります。中には、「教わっていないので、できません」と平然と口にする若手も……。この“切り札”をかわし、若手の自発性を引き出すには、どうすればいいのでしょうか。
田中課長は、松田課長から教わった「職場ぐるみのOJT(On the Job Training)」を実践しようと決意しました。これまで佐々木さんのOJTを主に担当してきたのは長谷川リーダーです。長谷川さんは、後輩の面倒見がいいとは決して言えませんが、それでもOJT担当者として負担がかかっていることは確かです。そのため、田中課長は、職場ぐるみのOJTを実践することで、長谷川さんの負担を軽減しようと考えました。一方で、次期製品開発プロジェクトは待ったなしの状態。自信を持てず、いまひとつプロジェクトに積極的に関わることができない佐々木さんに、自発性を持ってもらいたいと田中課長は考えています。
では、佐々木さんの自発性をうまく引き出すにはどうすればよいでしょうか? 前回、松田課長が“若手の自発性を引き出すにはアメとムチの使い分けがポイント”と言っているように、1つの方法として「甘やかさない」ということが挙げられます。
佐々木君、プロジェクトの件だが、進み具合はどうだい?
仕様はほとんど長谷川リーダーが決めて、ブロックダイヤグラムもできました。僕はメインボードに搭載する高速CPUの周辺回路の設計を担当します。
そうか。今回は、処理速度の大幅な向上が目玉の1つになるからな。高速CPUは、プリント基板の配線パターンの引き回しに注意しないと性能が出ないぞ。
アナログ的な高周波の振る舞いを知らないと難しいって聞いています。
そうそう。だから、実装にも十分気を付けないと。
同じことを長谷川さんからも言われました。ただ、高周波は教わったこともないので、僕にはできないと思います。デジタル回路設計なら大学や新入社員研修で学んだのですが。
……教わってないからできない、だって?
え? あ、はい、そうです。もちろん、教えてくれたらできると思いますよ。
おいおい、自分で学ぼうとは思わないのかい? それに、教えてもらえばできるなんて、設計業務をそんなに単純に考えているのか?
せっかく部門全体で佐々木さんのOJTに取り組む決心をしたばかりなのに、肝心の佐々木さんがこれでは先が思いやられます。
このようなやりとりは決して珍しいことではありません。言われたことしかやらない“指示待ち”とも違います。「教わっていないからできない」という理屈を、堂々と言ってきます。上司からすれば、「できないと言うことが恥ずかしくないのか?」「チャレンジ精神のかけらもないのか?」と思うでしょうが、いまどき世代からすれば、「教わっていないことはできない」が常識なのです。
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