ルネサス エレクトロニクスはハイエンドマイコンの新製品「RA8P1」を発売した。「マイコンでエッジAI」というニーズに応えるもので、1GHz動作の「Arm Cortex-M85」と250MHz動作の「Cortex-M33」のデュアルコアによって「業界最高クラス」(ルネサス)だという7300CoreMarkのCPU処理性能を実現したほか、ArmのNPU「Ethos-U55」を搭載している。
ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)は2025年7月1日、同社のArmコア搭載マイコン「RAファミリー」の新製品「RA8P1」を発表した。ハイエンドモデル「RA8シリーズ」の中でも最上位に位置する製品で、AI/ML(機械学習)アプリケーションやリアルタイム解析をターゲットとしている。既に量産を開始している。
1GHz動作の「Arm Cortex-M85」と250MHz動作の「Cortex-M33」のデュアルコアによって「業界最高クラス」(ルネサス)という7300CoreMarkのCPU処理性能を実現した。AIアクセラレーターとしてNPU「Arm Ethos-U55」も搭載し、256 GOPS(Giga Operations Per Second)という高いAI処理性能も備えている。
ルネサス エンベデッドプロセッシング事業部 シニアプリンシパルエンジニアの葛西信也氏は「ルネサスがArmコアマイコン市場に参入したのは2019年と後発の部類だったが、2020年にはIoTのセキュリティニーズに対応した製品を、2023年にはCortex-M85コアを搭載した製品を他社に先駆けて発売するなど、市場にキャッチアップしてきた。参入当初には『RXファミリー』『RL78』といった既存の自社製品と競合するのではないかという声もあったが、RAファミリーは新規の顧客や新規のアプリケーションでの採用がほとんどだ」と説明する。
そうしたRAファミリーの最上位モデルとして発売するRA8P1のターゲットは音声AI、ビジョンAI、またはそれらを組み合わせたマルチモーダルAIのような高度なエッジAIだ。
「『マイコンでAIを動かしたい』という設計者の要望は高まっている。MPUに移行すれば性能は高められるが、ハードウェアのアーキテクチャが大きく違うほか、ソフトウェアもリアルタイムOS(RTOS)からハイレベルOS(HLOS)への移行が必要で、マイコンを扱ってきた設計者にとってはハードルが高い。低電力/低コスト/高速起動というニーズも強く、『今まで通りマイコンで』できることが重要だ」(葛西氏)
市場要求の高まりと同時に、「マイコンでAI」を実現する技術も成熟してきている。Cortex-M85といったハイエンドマイコン向けのCPUはローエンドMPUにも勝る性能で、AIアクセラレーターも大きく進化している。さらに、ニューラルネットワークモデルの小型化も進み、ソフトウェアやエコシステムも充実してきた。葛西氏は「まさに今が、エッジAIを求める声とそれを実現する技術がそろってきたタイミングだ」とする。
ルネサスはこれまでもビジョン、音声、そしてセンサーなどを用いたリアルタイム分析の3分野でエッジAI向けのマイコンやMPU、ツール群を展開してきた。しかし、ビジョンAIはデータ量が多くそれを処理するためのモデルも複雑なので、提案するハードウェアはMPUである「RZファミリー」が中心になっていたという。RA8P1は、そうしたこれまでMPUが担ってきた用途に食い込むもので、葛西氏は「RAファミリーの限界を1段階引き上げるものだ」と語る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.