エンジニアにとって、自分の専門性を高めるための勉強は欠かせません。ですが、エンジニアとしてもっと上を目指すのであれば、専門以外の知見を広げることが非常に重要になります。
一人前のエンジニアになるには、より専門性を高めるための勉強が欠かせません。一方で、製品のコンセプトメイキングは良い「若手育成の場」になることも学びました。これをきっかけに、田中課長は佐々木さんに対して、技術以外にも関心を持たせた方が、中長期的な視点で見れば成長するのではないかと考え始めています。いまどきエンジニアは、自分の成長につながることが分かると頑張る傾向があります。
一般的には、技術をもっと身に付けてから、それこそ一人前になってから、「技術以外のこと、例えばマネジメントやマーケティングなどを学んだ方がよい」と言われますが、はたしてどうでしょうか?
川崎テックデザインに入社して22年になる田中課長は、入社以来ずっと開発部門で、大きな人事異動を経験したことがありません。課長になるまで、特にマーケティングや経営を体系的に学んだこともありませんでした。課長になってから、必要に迫られて少しばかりマーケティングらしきものをかじった他、人事部から幹部職研修として、マネジメントや組織について数回の研修を受けたくらいです。
田中課長は1人であれこれと考えていました。
機能しない当社のOJT(On the Job Training)の原因として、技術が分かる人事部がいないこともあるが、逆に、マネジメントや組織・人のことが分かる開発部門の管理職がいないことも問題ではないだろうか。そういえば、大手メーカーに勤めている大学同期は、管理職登用試験に向けて、研修を受けただけでなく通信講座でマネジメントを学んでいたなぁ……。他の会社はどうなんだろう? うちの会社は何もないぞ。マーケティング部の松田課長に聞いてみよう。
うちの課の佐々木さんの件では、OJTのこととか、松田課長のアドバイスがいろいろと勉強になっているよ。
ゆとり世代がどんどん社会人になっていますから、会社も受け入れ部門の上司もいまどきエンジニアの特性を理解した上で、体制を作らないといけないですね。
ところで、ちょっと教えてほしいことがあるんだけど、いいかい?
何でしょう?
“できるエンジニアの10の行動特性”は、昔も今も変わっていないと分かったけど、どういう経験を積めば、このようなエンジニアに育つのだろう?
と言いますと?
いや、実はね……、僕自身のこれまでのキャリアを振り返っても思い当たることだけど、エンジニアは専門性を高めることだけに専念していいのかなぁ?
良いところに気づきましたね。若いうちは専門性を高めて、とにかく技術で「これだ」っていうものを身に付けることは重要です。でもそれだけじゃ、技術ばかになってしまう。そのうち会社は、製品企画もできない、育成もできない管理職だらけになってしまいます。
いやあ、自分のことを言われているみたいで、耳が痛い。
僕が以前にいた会社では、“スーパーエンジニア”を早期に育成する取り組みを行っていましたよ。
“スーパーエンジニア”?
松田課長が「スーパーエンジニア6つの要件」として話した内容を図1に示します。
こりゃまた、すごいね。うちの会社にこんなスーパーマンはいないなぁ。
そうかもしれません。ただ、1つの製品を任せることができるエンジニアになることを考えた場合、I〜IVは必須でしょう。
確かに。あとは、V、VIの企画・マーケティング・経営のところが、果たして若手のエンジニアに必要かどうかだな。経営はともかく、企画とマーケティングは僕も今さらながら学んでおけばよかったと思うよ。
今、大手メーカーでは、このようなMOT(Management of Technology)の取り組みを行っていますよ。といってもエンジニア全員が対象なのではなく、選抜されたエンジニアに限定して行っているみたいですが。
みたいだね。パナソニックは「ものをつくる前に人をつくる」、トヨタ自動車も「モノづくりは人づくり」と言っているし。
実際、両社とも今はMOTの枠組みを学ぶ機会は、若手エンジニアからですよ。
本当に“スーパーエンジニア”の輩出に企業が取り組んでいるのか。まぁ当社くらいの規模じゃ、なかなか難しいだろうな。
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