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「仮説検証方式」で調査時間を1/10に短縮しよう「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(9)(2/3 ページ)

» 2012年10月22日 08時00分 公開
[江端智一,EE Times Japan]

「要約」と「結論」から論文全体を推測

 実施例として、学術論文や特許明細書を使ったトレンド調査を取り上げます。実施例のサンプルは、以下のように設定します。調査対象として学術論文のケースを取り上げた後に、特許明細書の読み取り方に移ります。

  1. 背景と目的:不明( 幹部の気まぐれと推認される)
  2. 主体:会社の幹部
  3. 客体:英語の学術論文または特許明細書が、20通程度
  4. 時期:1週間
  5. アウトプット:各ペーパーのサマリーとトレンド解析

 学術論文を調査する大方針は、全文を読まないことです(図1)。どうせ完璧な理解などできる訳ありませんし、仮にできたところでその分野に精通していなければ、論文の価値も分からないからです。

図 学術論文を手を抜きつつ調査する4つのステップ

Step 1):学術論文のAbstract(要約)をコピーし、翻訳ツール(Google翻訳など)にペーストして日本語に変換します。もちろん、日本語としては読むに耐えないひどい翻訳が出てきますが、これで良いのです。この段階で翻訳ツールを使う目的は、文章の翻訳ではなく単語の意味を調べてもらうことです。

Step 2):同じように、Conclusion(結論)もGoogle先生にお任せし、翻訳してもらいます。この段階で、要約と結論の翻訳結果(例えば、何が書いてあるのかさっぱり分からないGoogleの日本語翻訳結果)から、論文の内容を「推測」します。

 意味の分からない翻訳結果の単語から、何でも良いのでとにかく無理やりにでも、自分の中で筋の通った論文のストーリを「創作」します。荒唐無稽(こうとうむけい)な内容で、一向に構いません。論文に書かれている内容を、要約と結論のたかだか20行程度の英文(の翻訳文)から、「多分、このような内容が記載されているのだろう」との仮説を立てるのです。もし、この仮説がそれなりに筋が通っていて、もっともらしいように読めるのであれば、ここで文献調査を打ち切っていただいても結構です。

仮説を「背景」や「グラフ・表」で検証

 しかし、この段階で調査報告書を提出するのはお勧めできません。できれば、次のステップに入ってもらいたいと思います。

Step 3): あなたの立てた仮説を、学術論文のBackground(背景)を使って検証します。例えば、あなたがこの論文の内容を「軽水炉型原発の空冷式メルトダウン防止方法」について記載されているのだと仮定した場合、背景の記載に「鉄道運行管理システムの歴史」が記載されていれば、あなたの仮説は間違っていたことが分かります。同時に、Backgroundの記載内容から、仮説を修正することも可能となります。そこであなたは、例えば「運行管理システムの列車停止装置における衝突防止装置」についての記載であると、仮説を修正することができます。

Step 4):次に、再修正した仮説を前提に、論文本体に記載されている、グラフや表を見ます。特にグラフに記載されている内容や記載されている単位は重要です。Step.3と同様に、このグラフ・表の内容や単位と、再修正した「仮説」を照らし合わせます。グラフに記載されている内容が、例えば、列車がブレーキをかけてから停止するまでの制動距離や、電力消費量などの記載であれば、あなたの最新の「仮説」は、正しいという可能性が高まることになります。

 私の場合、おおむねこの段階で文献調査を終了し、その「仮説」を調査結果として報告書に記載します。しかし、あなたがその仮説にまだ不安があるのであれば、この段階で初めて論文のBody(本文)を使います。要約(Summary)や、結論(Conclusion)に記載されている「これまで見たことがない単語」、またはキーワードと思われる単語を選びます。そして、本文から、その単語が書かれているフレーズだけを抜き出して読みます。ここまでやれば、「仮説」の精度は相当向上しているはずです。

 これを果てしなく続けていけば、いずれは全文を読むことになりますが、それでは、「英語で記載された文献を、いかに短時間で手を抜きつつ理解するか、あるいは理解したかのように自分を納得させるか……」と設定した、今回の趣旨に沿いません。

特許明細書でも、英語論文と同じくまず「仮説」を立てる

 次に、英語論文に続いて、英文の特許明細書の調査方法に移ります(図2)。基本は英語論文と同じです(例えば、Googleで” United States Application US20080098068”などを参照してください)。

図 英文の特許明細書の調査方法

Step 1):まず特許明細書の「ABSTRACT(要約)」を読み(例えば、Google翻訳を使います)、「FIGURE(図面)」を眺めるという手順で、発明の「仮説」をイメージしてください。「CLAIMS(特許請求の範囲)」は読まなくても結構です。ただし、特許権の効力範囲を調べている場合は必要です。

Step 2):「BACKGROUND ART(明細書の背景技術)」、「DISCLOSURE OF INVENTION(課題、課題を解決する手段)」の順番で、発明の仮説のイメージを修正してください。

 これでたいていの場合、大丈夫です。論文の時と同様に、特許明細書の大部分である実施例は読みません。そもそも理解できないからです。発明者が半年から1年以上も温めてきたアイデアを、たった一回、それも英語で読んで理解しようなど、そもそも虫のいい話です。

 この他に仕様書やマニュアルの類もありますが、これの読み取り方は調査内容ごとに全く異なってきます。単なる調査の範囲であれば、上記の学術論文や特許明細書を例に紹介した「仮説検証方式」を有効に使うことができます。

 しかし、単なる英語の文献調査ではなく、製品を製造する、または製品の使用方法を説明する、という話であれば、仕様書やマニュアルを隅々まで完璧に理解することはもちろん、しかもほんの少しの齟齬(そご)さえも許されません。全文翻訳は当然のこと、不明点を発行元に問い合わせる必要すらあります(しかも英語で)。この点は十分に注意してください。

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