図面を書くこと、仕様書を出すこと――。開発部門の仕事はこれだけでは終わりません。自分の意図通りにモノを作ってもらうには、“いかに作りやすい設計図を書くのか”ということが重要になってきます。そのためには、開発の後工程である製造部門や、さらにその先のエンドユーザーを、若手エンジニアに常に意識させる必要があります。
前回、「スーパーエンジニアになるための6カ条」を松田課長から教わった田中課長。早速、若手の佐々木さんに対して、「技術以外の関心を持たせる作戦」に出ようとしています。田中課長は、「経営はもっと先として、前工程の企画側か、後工程の製造側か、どちらから学ばせるのがいいかな」と考え中です。
さて、面倒見があまりよくない先輩社員の長谷川さんの下でOJT(On the Job Training)を受けてきた佐々木さん。いつも自信がなく、不安でいっぱいだった佐々木さんが設計した、次期新製品であるネットワーク機器の試作機が出来上がってきました。試作したボードを見た途端、これまでの不安そうな様子がうそのように、うれしそうな表情をした佐々木さんです。
佐々木さんは、この製品のCPUボードと周辺インタフェース部分をメインに担当しています。高い周波数で動作するので、田中課長からは「自分でも勉強して、設計と実装には注意するように」と言われてきました。
佐々木さんは、これまで長谷川さんの下で、ある意味、下っ端要員としてボードの調整やデータ取りなどを行ってきたので、試作ボードの動作確認や調整方法などは身に付いています。
まず、ボードがショートしていないことを確認した上で、おもむろに電源を入れました。次に、ロジックアナライザやFPGA開発ツールなどを持ち出して、ボードに接続します。
基本動作の確認に3時間ほどかかりましたが、どうも納得がいかないらしく、浮かない顔をして首をかしげている佐々木さん。
何で設計通りに動かないんだろう……?
あれこれ悩んでいる様子の佐々木さんを見て、田中課長が声をかけます。近くに、長谷川リーダーの姿は見えません。
どうだい、試作ボードの具合は?
基本的な動作は大丈夫のようですが、FPGAに正しくデータを書き込めるときと、書き込めないときがあって……。
書き込めるときと書き込めないときの振る舞いの違いは?
最初のプリセット時は、データが正しく書き込まれているのを確認しました。でも、2回目以降にデータを読み出すとプリセットと違う値が返ってきます。
(うなずきながら)データが書き換えられているということかな。データが書き換わるときに、WR(Write)信号はどうなっている?
WR信号は出ていないです。
いや、波形のことを聞いたんだ。それと、FPGAの上をまたいでぶらぶらしているこの線は何だい?
あれ? こんなのあったかなあ。
じゃあ、順番に見ていこう。まず、WR信号をワンショットでトリガをかけて、データホールドするようにロジアナ(ロジックアナライザ)のプローブをつないでみて。
できました。
今、データはプリセットのままだ。さっきのぶらぶらしている線を振ってごらん。FPGAに近づけたり、遠ざけたりしながらだ。
あ、課長。データが変わりました。WR信号も出たみたいで、同期がかかっています。
さっき、CPUからはWRのコマンドは出ていないだろ。ということは、このぶらぶらしている線が何か悪さをしているってことだよな。
どういうことですか?
まあ見ててごらん。次に、できるだけ帯域が広い……そうだなあ、300MHzくらいまでのオシロスコープを持ってきてくれ。アナログの古いタイプでも構わない。
これでいいですか? アナログのだいぶ古いタイプですけど、こんなの使えるんですか?
WR信号にプローブを当てて波形を見てごらん。
何だか、細かいヒゲみたいな信号が乗っていて波形の立ち上がりが揺らいで太く見えます。
やっぱりな……。
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