さて、連載第10回で紹介した筆者のロンドン出張は、それはもうトラブルのてんこ盛りだったわけですが、この入国審査でも、審査官と面倒なことになりました。
――入国の目的は何ですか
ビジネス(仕事)です。
――何の仕事ですか
交通システムの設計の仕事です。
――何のためにこの国に来たのですか?
交通システムの設計の打ち合わせのためです。
ここで審査官が、困ったという顔をして質問を続けました。
――誰のためにこの国に来たのですか?
我が社のためですが。
(いや、そうじゃなくて……という表情)――この国の誰の利益のためにこの国に来たのですか?
我が社の欧州部門の利益のためですけど?
という質問を何度か繰り返しているうちに、審査官が諦めたように入国スタンプを押して、放り投げるようにパスポートを私に返しました。
「変な審査官だな」と首をかしげながら、いろいろ考え込んでいましたが、その後、電車でロンドン郊外へ移動している最中に自分のミスに気がつきました。
私は、「この国の誰の利益のために、この国に来たのですか?」の質問の意味を取り違えていたのです。審査官の興味は、あくまで「自国の利益」なのです。私の会社の利益がどうなろうが、それはどうでも良いことなのです。彼(審査官)が知りたかったのは、
ということだったのです。
ということは、入国審査で業務の内容を聞かれた場合、「入国する国の利益」をスラスラと言えなければいけないのです。しかし、このような説明を短時間かつ簡潔にできる人を、「英語に愛されないエンジニア」とは呼びません。であれば、やはり、あらかじめ準備しておくことが望まれるわけです。
そこで、私が提案したいことは、入国審査用のレジュメの作成です。このレジュメを、ばん!と、パスポートと一緒に最初に審査官の目の前にたたきつけてやってください(もっとも、さらに詳細な質問をされてしまう、というリスクもありますが)。
本レジュメの目的は3つです。
(1)「あなた(審査官)に何も隠しだてするつもりはない」という潔さとオープンマインドの表明
(2)「ここに書かれている以上のことは話せない」という暗黙的な守秘義務の主張
そして、ここが大切ですが、
(3)「私に英語で質問しても、時間の無駄だ」という認識の共有化
となります。
簡単なレジュメのサンプルを付録として載せておきますので、必要に応じてご利用ください。
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