ITの普及によって、“コミュニケーションレス”になりがちな職場。これでは、若手エンジニアが上司や先輩に何かを相談したくても、しにくい状況になってしまいます。若手とベテランが、互いにあまり気負わずに話ができるような「インフォーマルな場」は、上司である皆さんが設ける必要があります。
第20回では、若手の育成やキャリアデザインについて考える際、“相談する”“共有する”という「インフォーマルな場」をうまく設けることが重要だという話をしました。
今回は、その続きとして、インフォーマルな場を“仕掛ける”方法と、そこでのコミュニケーションの質や組織学習についてお伝えします。意識せずとも自然にOJTができるような職場環境や、しっかりとした人間関係を、「インフォーマルな場」を通じて構築する――。そこに、いまどきエンジニア育成のヒントがあるかもしれません。
コミュニケーション、コミュニケーションと言うけど、普段は僕ら管理職も忙しくて、なかなか部下と話す時間を取れないなぁ。
ですね。追われるような毎日ですし。
ほんと、何とかしてほしいよな。それでいて、会議はやたらと多くて取られる時間は半端ないし、メールや通知書でもいい内容をわざわざ集まって聞く意味があるのかなぁ。
一方的な伝達事項なら、メールでも十分ですよね。おっと、メールが多すぎて見落とす人がいるから、集まれと言うのかな。
PCが社員1人1台支給され、メールもインターネットも当たり前となった現在では、“face to face”のリアルなコミュニケーションが希薄な職場が増えています。図1をご覧ください。
みんな忙しいから会話はどうしても端的になり、相談したくても相談できない。このような状況が日常茶飯事となっています。会議は、相談する場ではなく、進捗や連絡事項を伝えるような一方通行な場になりがちです。結果的に、“一緒になって考える場”も少なくなってしまうのです。メールやグループウェアをはじめ、ITの普及は、リアルコミュニケーションレスを加速すると言えるでしょう。
開発エンジニアの仕事は、開発プロセスのフェーズにもよりますが、仕様が決まって設計を始めると、ベテランであればあるほど“自己完結”しがちになります。今は設計ツールやコンピュータによるシミュレーションツールが普及しているので、一日中モニターばかり眺めて、誰とも会話することなく仕事を終えるということも珍しくありません。
難しい顔でモニターとにらめっこしているのを見たら、誰でも声をかけにくくなっちゃいますよね? でも、新人や若手エンジニアからすれば、ツールの使い方1つ取っても悩むし、シミュレーション条件やデータ作成・パターンなどについても聞きたいことは山ほどあります。ですから、上司や先輩から声をかけてほしいと待ち望んでいるのです。
ところで、先ほど2人の課長の会話にあったように、「会議やミーティングが以前より減った」という話はあまり聞きません。いったいなぜでしょうか? これからお伝えすることが、社内の会議の仕方やコミュニケーションの取り方、若手に対するOJTへの生かし方を考える際にヒントになれば幸いです。
今さらですが、そもそも、「コミュニケーション」とは何でしょうか?
普段、何気なく使っている言葉ですが、「情報の授受」なのか、「意思疎通」なのか、「交流」なのか、いくつもの意味に解釈できて、非常に広義です。
では例えば、“スキル”という言葉を付けて、「コミュニケーションスキル」としてみましょう。「コミュニケーションスキルの高い人」と聞いて、皆さんは具体的にどんな人をイメージするでしょうか? また、ネットの世界では、リアルではないSNS(Social Networking Service)もバーチャルなコミュニケーションの場として成り立っています。“手段”という言葉を追加して「コミュニケーション手段」としてみると、メッセンジャーやスカイプ、スマホのアプリなどを思い浮かべる人もいることでしょう。
ちょうど半年前に掲載した第11回では、上司の皆さん向けに「コーチング」や「セカンドシグナル」の話をしました。そこでは、“相互理解”について話しています。この“相互理解”をより深めるために、皆さんの普段の「コミュニケーションスタイル」を振り返りながら、「会話」と「対話」について考えてみましょう。
例えば、皆さんが聞き手の時に、話し手の言葉を推測や先入観で捉えたり、聞いているうちに何か別の言いたいことが頭に浮かんで、それを主張したりすることで、話が発散してしまったり、あるいは平行線のままだったりすることはありませんか? 日常生活での会話は、楽しくすっきりした気がするにもかかわらず、ここ一番の大事な問題、意思決定、悩みなど、1人では抱えられずに相談が必要な場面になればなるほど、言いたいことが言えなくなるものです。言えたとしても話が深まりにくく、聞き手側からすれば「分かったようでさっぱり分からない」。一方で話し手側は、「理解してもらえた気がしない」「なんか、すっきりしない」ということになりがちです。主義主張の応酬に発展し、「こんなことなら相談しなければよかった」となってしまっても気の毒です。
上記のようなやり取りを「会話」とし、「対話」と比べたものを図2に示します。
対話とは、話し手の「主張」(伝えたいこと、自分の考え、仮説など)に対して、聞き手が「探求」(聴く、質問する、どう理解したかを伝える、など)する行為を指します。前述したような、話し手と聞き手の主義主張の応酬は“対話”にはならないわけです。
対話が必要な場面では、話し手の話は整理されていないことが普通です。「もやもやする」「こう感じる」「こうだと思う」。けれども思うように言葉が出ない、うまく伝えられない――。こんな“もどかしさ”を感じるときです。特に、経験が浅い若手であれば、このようなもどかしさを感じることも多いでしょう。
対話を繰り返すと、話し手と聞き手が、それぞれ何を背景に、何を感じ、何を伝えたいのかが整理・共有されていきます。それにつれ、共感が生まれたり、違いを分かった上で尊重したりするようになります。そこで初めて、いい知恵を生み出せる関係性が出来上がります。“いい話し合い”をして問題解決を繰り返すことで、組織が学習していき、組織力が向上するのです。
また、個人にとっても、対話の中で内省したり他の人の発言を聴いたりすることで、気づきが生まれ、学習することができます。効力感と期待感が明確になるにつれ、自律的な行動が生まれ、やりがいへとつながっていきます。
そして、このような変化や成長を生み出しやすい「場」が、「インフォーマルな場」なのです。
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