普及の兆しがいまだにあまり見えない家庭用の3Dテレビに比べて、4Kテレビ市場の成長については楽観的にみる業界関係者が多いようだ。
ウォルトディズニーの傘下であるスポーツ専門チャンネルのESPNは2013年6月上旬、2013年末に3Dチャンネルを終了する計画をほのめかすツイートをした。このツイートに驚く人はいないだろうし、筆者も驚かなかった。
だが、「4Kテレビをはじめとする超高精細テレビは、3Dテレビのような運命をたどらない」とかたくなに信じる業界の姿勢には少し驚いている。
米国の市場調査会社であるIHS iSuppliのディスプレイ研究戦略部門でシニアディレクタを務めるSweta Dash氏は2013年初頭に、エレクトロニクス業界に関する情報を発信するWebサイト情報誌であるElectronics360に、「3Dテレビに関しては、テレビメーカーの野望は打ち砕かれた。だが、この教訓を生かすことで、4Kテレビは、より明るい未来が期待できるだろう」というコメントを投稿している。
だが、考えてみてほしい。3Dテレビを押してきた民生機器業界は、その失敗からいったいどんな教訓を得たというのか?
消費者が「3D映像を視聴するために、あの掛け心地の悪い3Dメガネを装着するのは気が進まない」と感じていることを無視すべきではないと学んだのか?
「業界側が入念に構想を練った製品を投入したとしても、消費者の基本的な行動パターンはそう簡単には変えられない」ということに気付いたのか?
それとも、「3Dテレビや超高精細テレビなどの新しいテレビ技術には、視聴者が“お金を払うに値する”と納得できるような、充実したコンテンツが必要だ」と分かったのだろうか。
消費者は、このようなコンテンツが用意されて初めて、「3D/超高精細テレビは、買う価値がある」と判断するのだ。高品質なコンテンツを視聴できるチャンネルが2、3種類しかなかったり、Blu-rayでしか見られなかったりするようでは、普及は期待できない。“テレビ”と呼ぶからには、豊富なコンテンツを自由に視聴できることを期待しているからだ。
だが、筆者が最も懸念しているのはテレビメーカーの姿勢だ。彼らは、テレビ事業の体制の立て直しに躍起になるあまり、消費者の本当のニーズを見誤っているのではないだろうか。
もちろん、筆者の考えにも偏りがあるかもしれない。そこで、市場アナリストに「テレビ業界は3Dテレビの不振から何を学んだのか?」という質問を投げかけてみた。さらに、「テレビ業界が、超高精細テレビについて、3Dテレビとは全く違った展開を信じているのはなぜか?」とも尋ねた。
IHS iSuppliのDash氏は、3Dテレビがニッチ市場から抜け出せなかった理由として、コンテンツの不足と価格設定の高さ、3Dメガネを装着しなければならない不便さを挙げた。
米国の市場調査会社NPD Groupでディレクタを務めるBen Arnold氏も、Dash氏の意見に同意している。
Arnold氏は、「3Dメガネを装着しなければならないことは、消費者がコンテンツを視聴したいという気持ちの妨げになっている。3Dコンテンツをどこで入手できるのかも分かりにくい」と述べている。
米国の市場調査会社であるEnvisioneering GroupのRichard Doherty氏は、「高価格なことや、アクティブシャッター方式では3Dメガネの充電が必要なこと、画面が薄暗いといった点が目立って、消費者には、家庭用サイズの3Dテレビのメリットが見えにくかった」と指摘する。同氏は、「アクティブシャッター方式の3Dテレビは、現在の2倍の明るさが必要だ。室内で3Dテレビを見ると、3Dメガネなしでも暗く感じる」と述べている。
3D映像は映画館では成功していると言っていいだろう。だが、家庭用3Dテレビは同じようにはいかなかった。Doherty氏は、「映画館では明るさが調整された環境で上映され、全員が3Dメガネを装着する。ソファに寝転んで見ることもない」と述べた。
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