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台風から思い付いた――「オシアナス」を支える新型ソーラーセルエネルギー技術(1/2 ページ)

カシオ計算機のフラッグシップモデル腕時計の1つである「OCEANUS」(オシアナス)の新製品は技術的特長の1つとして、“新開発ソーラー”をうたう。発電効率を高めることが難しい中で、発電能力を大幅に高めることに成功した“新開発ソーラー”はどのようなものか、開発者の話も交えて紹介する。

» 2014年03月13日 15時10分 公開
[竹本達哉,EE Times Japan]

 電池交換不要のソーラー充電式の腕時計は、10年以上前から使用され、今や数千円程度の低価格腕時計にも当たり前のように搭載されている。そういった意味でも、腕時計におけるソーラー技術は、コモディティ化した“こなれた技術”のように思える。しかし、カシオ計算機は2013年秋に発売した電波ソーラーウオッチのフラッグシップモデル「OCEANUS(オシアナス)」の新製品「OCW-S3000」(価格:16万円/税別)や「OCW-S3001」(価格:18万円/税別)の1つの目玉として、“新開発ソーラーセル”を押し出した。

機能、デザインを左右するソーラー

OCEANUS OCW-S3000

 なぜ、今さらソーラーセルなのだろうか? 実は、ソーラーセルの出来、不出来が腕時計のデザイン、機能の全てを左右する存在であり、依然としてキーテクノロジーの1つであり続けている。

 ソーラーセルは、腕時計の駆動源であり、当然ながら、面積当たりの発電量が大きければ大きいほど優位だ。発電量が大きければ、多くの機能を搭載、駆動でき、時計としての価値を高めることができる。先に紹介したOCW-S3000は、6つのモーターを搭載するなど、腕時計の中でも最も多くの機能を搭載するタイプの時計であり、特に発電量を確保しなければならない。

 発電量を増やす最も単純な方法は、ソーラーセルのサイズを大きくすることだが、腕時計であり、それも限られる。

 その限られた面積で、発電量を高めるには、発電効率の高いソーラーパネルを使用することが思い付く。カシオもこれまで、優れた発電効率のソーラーパネルを外部調達して、室内光などの弱い光でも効率的、安定的に時計を駆動させる“タフソーラー”を実現してきた。ただ、発電効率を高めるには、大部分を外部のソーラーパネルメーカーに委ねざるを得ない上、ソーラーパネルの発電効率を大幅に高めるようなことは望みにくい状況だ。

ソーラーセルの重要性。限られたソーラー発電能力の中では、機能、デザインを選択的に搭載することになる (クリックで拡大) 出典:カシオ計算機

 次に考えられる策は、ソーラーパネルが露出する面積を増やすことだ。腕時計のソーラーパネルは文字盤の下に実装される。文字盤の装飾や、文字盤のさらに上に位置する時計の針を小さくし、ソーラーパネルに当たる光量を確保すれば、発電量を稼ぐことができる。ただし、この方法は、デザイン面で大きな制約を生む。時計の針を細くしてしまうと、視認性が落ち、ユーザーの利便性も大きく損なう。

 カシオもこれまで、より効率の良いソーラーセルを使いながらも、ソーラーセルの発電量という枠の中で、トレードオフ関係にある“機能”と“デザイン”のバランスを取りながら製品開発を続けてきた。

 発電量を増やすには、やはり、発電効率の高いソーラーパネルの登場を待つしかないか、というような状況下で登場したのが“新開発ソーラーセル”だ。

ソーラーセルの配置イメージ

 カシオのソーラー充電式腕時計の場合、扇型のソーラーセル6枚を搭載する。ソーラーセルは0.5Vの定電圧で発電し、ソーラーセル6枚を直列接続することで、約3Vを要する充電電圧を得ている。

 発電電力を増大させるためには、電流値を稼ぐ必要があるが、6つのセルで均等に電流量を得る必要がある。なぜなら、5つのセルが10μAで発電できても、1つのセルの発電電流が5μAであれば、セル全体としての発電量は3.0V×5μA=15μWとなってしまう性質があるためだ。言い換えれば、最も小さいセルの発電量がセル全体の発電量を決めてしまうということだ。

左=充電回路の構造イメージ 右=ソーラーセルの発電特性のイメージ (クリックで拡大) 出典:カシオ計算機

 カシオも均等にセルが発電するよう同じパネル素材、サイズのセルを実装してきたが、セルごとの発電量は大きくばらついた。その原因は、針だ。

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