メディア

NANDフラッシュの基本動作(前編)福田昭のストレージ通信(9)(1/2 ページ)

SSDを知るには、その記憶媒体として採用されているNANDフラッシュメモリを理解することも重要だ。今回は、NANDフラッシュメモリの基本動作を詳しく説明する。

» 2014年07月14日 08時00分 公開
[福田昭EE Times Japan]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

記憶の基本単位「メモリセル」

 SSD(Solid State Drive)やUSBメモリなどのストレージは、記憶媒体にNANDフラッシュメモリを採用している。このNANDフラッシュメモリは半導体メモリの一種で、不揮発性(電源を切ってもデータが消えない性質)と低コスト(記憶容量当たりの単価が半導体メモリの中で最も低い)を特長とする。

 NANDフラッシュメモリの動作は独特で、磁気記録はもちろんのこと、それまで使われていた半導体メモリ(DRAMやSRAMなど)とも違っていた。本稿ではその基本原理を解説したい。

 フラッシュメモリに限らず、半導体メモリは「メモリセル」と呼ばれる1ビット(注:2ビット以上のこともある)の記憶領域を基本単位としている。フラッシュメモリのメモリセルは、「セル・トランジスタ」と呼ぶ特殊な構造のMOSトランジスタである。「セル・トランジスタ」と通常のMOSトランジスタとの大きな違いは、ゲート電極にある。フラッシュメモリのセル・トランジスタは、ゲート電極が絶縁膜を挟んで上下2層式になっている。下のゲート電極を「浮遊ゲート(フローティング・ゲート)」、上のゲート電極を「制御ゲート(コントロール・ゲート)」と呼ぶ。

 MOSトランジスタのゲート電極に相当するのは、制御ゲートである。これに対して浮遊ゲートは、周囲とは電気的に絶縁されている。絶縁体の海に浮かぶ船のような電極である。この浮遊ゲートに電荷を強制的に注入したり、浮遊ゲートに蓄積された電荷を強制的に抜き取ったりすることで、セル・トランジスタのしきい電圧(オンとオフが切り換わるゲート電圧)を制御する。このしきい電圧の変化が、記憶するデータの値に対応する。

フラッシュメモリのセル・トランジスタ。上下2層のゲート電極を備えている(クリックで拡大)

フラッシュメモリのデータ書き換え

 メモリに対する基本的な動作は、読み出し(リード)と書き込み(ライト)である。半導体メモリのSRAMやDRAM、磁気メモリのHDD(Hard Disk Drive)はいずれも、データを書き込み済みの領域に対して直接、新たなデータの書き込み動作を実行する。この動作は上書き(オーバーライト)とも呼ばれる。

 しかしフラッシュメモリの動作では、上書き(オーバーライト)ができない。書き込み(フラッシュメモリでは「プログラム」と呼ぶことが多い)済みのメモリセルに対してデータを書き換えるには、あらかじめデータを消去(イレース)しておく必要がある。

フラッシュメモリの基本動作(クリックで拡大)

 なぜこのような手間がかかるのだろう。それはフラッシュメモリの記憶原理と関わっている。フラッシュメモリのプログラムとは、浮遊ゲートに電子を注入してセルトランジスタのしきい電圧を上昇させることにほかならない。言い換えると、プログラム動作ではしきい電圧を下げることが出来ない。浮遊ゲートから電子を引き抜くことでセルトランジスタのしきい電圧を下げる動作が、消去(イレース)なのである。言い換えると、DRAMやHDDなどにおける書き込み(ライト)動作は文字通り、データを自由に書き込めるのに対し、フラッシュメモリでは書き込み動作が「消去」と「プログラム」の2段階に分かれているのだ。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

公式SNS

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.