テレビ番組の視聴方法が変わりつつある今、米国では、デジタルテレビ放送規格「ATSC」の次世代バージョン「ATSC 3.0」への取り組みが進んでいる。どのような議論が交わされ、どのような実証実験がなされているのか、ATSC 3.0の最新事情を紹介する。
米国の消費者は今や、モバイル機器でストリーミングビデオを視聴することに慣れ親しみ、満足するようになったが、その一方でケーブルテレビや衛星テレビなどもこれまで通り利用している。そこで地上波放送局各社は、誕生から約20年を迎えるデジタル放送システムについて再定義すべく、今後の生き残りを懸けた取り組みを進めている。
放送局各社は現在、将来を見通せずにさまよっているような状態にある。しかし今後、モバイルブロードバンドに対して敵対するつもりはなく、友好な関係を構築できることを実証してきたい考えだ。
そして今回、新しい規格「ATSC(Advanced Television Systems Committee) 3.0」を打ち出すという大きな賭けに出た。ただし、今のところは、まだ策定に向けた作業中の段階にある。
米国ウィスコンシン州マディソンのテレビ局WKOW-TVは、2014年10月22日午前1時、デジタルテレビ信号を短い時間遮断して、4Kテレビ信号とHD信号(720p)、SD信号(480p)を同時に伝送するという試験を行った。現場には、業界の専門家による視聴団体や、現地の放送技術者の他、EE Timesを含む報道関係の記者数名が立ち会った。
今回の試験では、ユニバーサル地上放送システム「Futurecast」が採用された。このFuturecastは、LG Electronicsと、Zenith(LG Electronicsの研究開発部門である米国子会社)、GatesAir(Harris BroadcastのRF部門から分離独立)が共同開発したシステムだ。
現在、ATSC 3.0の物理層技術として10種類のシステムが候補に挙がっていて、検討が進められている。Futurecastも、その中の1つである。業界団体によると、もし他の競合する物理層技術が評価され、“候補規格”として採用された場合には、2015年末までに新たな“提案規格”を策定することになるだろうという。
Zenithの研究開発施設でバイスプレジデントを務めるWayne Luplow氏は、「Futurecastは現在のところ、実世界の試験において成功を収めることができた唯一のATSC 3.0向け物理層規格対応システムである。他のシステムは、まだ机上の空論の段階にある」と述べている。Futurecast開発チームは2014年8月に、マディソンの中心街から80km以上離れた地域において、1回目のフィールド試験を行った。その際は約5万件のデータを収集したという。
Luplow氏は、「今回のフィールド試験に関しては、単にうまく対処できればそれでよいとは考えていない。開発チームとしては、ATSCのプロセスを支持していきたいと考えている」と述べている。
深夜に行われた今回のFuturecastの試験がいかに重要であるかを理解するには、その内容や新しいATSC 3.0について、もう少し知っておく必要がある。
そもそも、なぜ今、テレビ放送なのだろうか。まずは、ATSC 3.0について詳しくみていきたい。
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