「組織能力」とは、企業が固有に持つ有形・無形の資源と、それを活用する組織ルーチンである。組織ルーチンとは、複雑で困難なプロセスを、組織として自然に実現し得る能力である。
一般に、組織能力の定義については、上のように書かれている。もう少し分かりやすく言えば、「難しいことを自然に実現してしまう能力」になるだろう。
果たして、そんなことが実際にあるのだろうか? これは、例えば、スポーツで考えてみれば分かりやすい。一流のアスリートが普通に実現していることが、素人からすれば、とてつもなく難しいというのは、よくあることだ。アスリートも、子供の頃から練習を積み重ね、たゆまぬ努力を続けたからこそ難なくできる。素人が少しかじったくらいで、できてしまったら、それこそ、プロのアスリートとしての立場はなくなるだろうし、素人が一流のアスリートを負かすなどは、現実的には「できっこない」。
前述した“容易に真似できない領域”こと、「真似したくとも真似できない」ことは、既に実現できている企業(前述の例ではトヨタ自動車)や一流のアスリートからすれば、「自然にやってしまっている」ことになる。身に付いているというのは、そういうことだ。これらを図3のように示してみよう。
「深層の競争力」と「鍛え続けた強み」を合わせたものを、「モノづくりの組織能力」としている。
「深層の競争力」とは、その場しのぎや小手先の競争ではなく、複雑で見えにくい深い領域における競争力のことをいう。これらは、短期間で習得できるものではなく、試行錯誤を繰り返しながら、この試行錯誤の過程において蓄積される組織学習の成果であり、「鍛え続けた強み」そのものである。非常に時間がかかるのである。
これらは、属人的(人に蓄積される)特性を持つことに加え、組織における「暗黙知(暗黙的な経験知)」は企業組織固有のものだ。
人は、同一のことを学習したとしても、周囲の環境によって、蓄積される経験知や蓄積のされ方そのものは異なってくる。A社で成功したAさんが、必ずしもB社で成功するとは限らない。「朱に交われば赤くなる」のことわざのように、人は環境(属する企業組織)によって良くも悪くもなるのである。
したがって、他社でうまくいったからといって、自社が短期間で模倣できるものではないし、技術の中身が全てわかったとしても、決して同じものは作れないのだ。
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