金星探査を計画する米航空宇宙局(NASA)は、金星の地表温度500℃に耐えられる半導体の準備に着手した。半導体にとってもかなり過酷な500℃環境でも壊れない半導体を実現する基盤技術開発を任されたのは、米国のベンチャー企業だ。
金星の地表の温度は、およそ500℃だ。500℃という環境は、半導体のリード線を溶かし、アルミニウムをスラリー状に変えるのに十分な熱さだ。
そこで金星探査を計画する米航空宇宙局(NASA)は、高/低温度対応半導体のスペシャリストであるファブレス企業のOzark Integrated Circuits(Ozark IC)は雇い入れることにした。アーカンソー大学のスピンオフ企業であるOzark ICに、500℃に対応するプロセスデザインキット(PDK)を構築させるためだ。Ozark ICには米国の中小企業技術革新研究プログラム(Small Business Innovation Research Program)から23万5000米ドルの資金が提供される。
Texas Instrumentsの元ベテラン社員で、現在ではOzark ICの最高技術責任者(CTO)を務めるJim Holmes氏は、EE Timesに対し、「われわれはアメリカ国立科学財団(National Science Foundation)が以前、Ozark ICに投資してくれたことに感謝している。NSFからの資金を元に、当社は350℃対応のPDKを作ることができたからだ。この成功に促される形で、NASAは金星探査用ローバー(探知車)で用いるチップ向けに500℃のPDKを構築する2段階のプロジェクトを実施することを決定した」と語った。
太陽系で最も過酷な環境下にある金星では、宇宙探査機は数時間稼働しただけで役に立たなくなる。そのため、ロシアや日本による金星の探査は難航している。NASAは今回のプロジェクトを通じて、ロシアと日本をしのぐ金星探査を実現することに大きな期待を寄せている。
Ozark ICはプロジェクトの第1フェーズで、350℃のPDKを500℃まで耐熱範囲を増強できることを証明する計画だ。このPDKはRaytheon Systemsが製造したもので、そこでは「HiT-SiC CMOS」と呼ばれている。特に、NASAは惑星の組成実験や金星環境の研究に向けて信頼できる紫外イメージセンサーを必要としている。さらに第1フェーズでは、リアルタイムのプログラムが可能なローバー向けマイクロコントローラの構築を目指す。アーカンソー大学電気工学部教授で、同大理事会の共同設立者兼メンバーであるAlan Mantooth氏らの協力の下、この取り組みを主導する予定だ。
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