今回から、ナノインプリント・リソグラフィ技術の解説に入る。この技術の最大の強みは装置コストが非常に低いことだ。一方で、欠陥をどう低減するかという難しい課題を抱えている。
リソグラフィ技術の将来を14nm世代から5nm世代まで展望するシンポジウム「Making Sense of the Lithography Landscape: Cost and Productivity Issues Below 14nm and the Path(s) to 5nm」では、半導体露光装置の大手ベンダーであるキヤノンが、開発中のナノインプリント・リソグラフィ技術について講演した。講演タイトルは「Nanoimprint System Development and Status for High Volume Semiconductor Manufacturing」、講演者はキヤノンの米国子会社Canon Nanotechnologiesでマーケティングおよび事業開発担当のバイスプレジデントを務めるDouglas J. Resnick氏である。
講演内容をご紹介する前に、ナノインプリント・リソグラフィ技術について簡単に説明しておこう。ナノインプリント・リソグラフィ技術は、「インプリント技術」を半導体の微細加工用に発展させた技術である。ここでインプリント技術とは、表面の凹凸によって特定のパターンを形成した型(テンプレート)を使い、テンプレートを対象物に押し付けることによってパターンを転写する技術である。いわゆる「判子(はんこ)」や「スタンプ」に近い技術だ。
このインプリント技術をサブミクロン以下に微細化するとともに、半導体リソグラフィ用に改良したのがナノインプリント・リソグラフィ技術である。光インプリント・リソグラフィ技術とも呼ばれている。
ナノインプリント・リソグラフィでは、シリコン・ウエハーに液体状のレジスト(紫外線硬化型樹脂)を塗布し、その上からテンプレートを押し付ける。テンプレートの凹み部分にはレジストがたまる。テンプレートの凸部はレジストが残らないか、残ってもごく薄くなる。そして紫外線を照射し、レジストを硬化させる。レジストが硬化したらテンプレートを剥がす。残ったレジストを利用してエッチングを実施する。これで所望の回路パターンがシリコン・ウエハーに転写される。
従来のArFレーザー露光装置は、複雑で精密な光源と光学系を搭載している。このため、装置コストがきわめて高い金額(億単位)になる。ところがインプリント・プロセスでは、テンプレート全体に紫外線を照射するだけなので、光源と光学系がきわめて簡素になる。このため、装置コストが従来技術のArFレーザー露光装置に比べると、はるかに低くて済む。この装置コストの低さが、ナノインプリント・リソグラフィの最も大きな特長である。
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