東京工業大学笹川崇男准教授らは、二セレン化タングステンでグラフェンを超える2次元電子機能を容易に実現できる手法を開発したと発表した。スピンや光を利用するトランジスタ応用につながる新技術だという。
グラフェンを超える2次元電子機能を二セレン化タングステンで実現できるかもしれない。
東京工業大学応用セラミックス研究所の笹川崇男准教授、英St. Andrews大学Philip King講師らの共同研究チームは2015年9月24日、二セレン化タングステン(WSe2)の単結晶表面にルビジウム(Rb)を希薄に蒸着することで、電子の持つ磁気的性質(スピン)を巨大に変化できる単原子層の電子ガスが生成することを発見したと発表した。「スピンや光を利用するトランジスタ応用につながる新技術」(研究チーム)とする。
グラフェンの発見以来、原子レベルの厚さを持つシート状物質が持つ2次元電子機能の研究が盛んに行われている。2次元電子機能を発揮できる物質としては、グラフェン以外にも遷移金属ジカルコゲナイドと総称されるMX2の組成(M=遷移金属、X=カルコゲン)を持つ層状物質が注目されている。
この遷移金属ジカルコゲナイドの1つであるWSe2は、重たい(大きな原子番号を持つ)元素で構成される物質であり、電子の運動と電子の磁石的性質(スピン)とが強く影響しあった状態を持ち、グラフェンにはないスピンを電圧で制御するというような新機能の実現も期待されている存在だ。
WSe2は、単原子層ではスピン機能を発揮できる電子状態を持つが、「単原子層を簡便に大面積で作製できる方法はこれまでに開発されていない状況」(東工大)という。単原子層ではなく、複数層を持つバルク単結晶のWSe2は比較的容易に製造できるが、各層の持つ機能を打ち消すように積層した構造になるため利用できないとされてきた。
これに対し、笹川准教授らのグループは今回、積層化で失われていたWSe2単原子層に固有な電子スピン機能を、単結晶の最表面に復活させ、容易に利用できる方法を開発した。
その方法とは、「結晶表面にアルカリ金属のRbを希薄に蒸着するだけ」(東工大)だ。
蒸着したRbは、最表面のWSe2単原子層にのみ電子キャリアを供給し、2次元電子ガスを形成する。その時、数原子レベルの限られた距離に電気分極が発生し、単原子層の電子状態には巨大な電界効果が引き起こされるという。ゲート電極を用いて外部電圧で誘起させる電界効果の場合と異なり、電荷蓄積層がむき出しになっているわけだ。
研究チームでは、最先端の分光手法を用いて、Rb蒸着前後の電子状態変化を直接に観察することにより、「結晶表面単原子層への選択的な化学的静電ドーピング効果」を確認した。
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