「標準化」は、技術が世の中に広く普及するためのすべとなり、やがてはその技術を開発した企業に利益を生み出す。かつての日本メーカーは、革新的な技術を国際標準化してしまえば、それが利益につながると考えていた。だが、そうではなかったのである。
本連載で何度か登場したDVDプレーヤーであるが、第1回では、イノベーションはあった・「価値創造」はできたものの、「価値獲得」ができずに短期間で衰退したことを伝えた。また、直近3回では、製品アーキテクチャについて述べてきた。
今回、これら(アーキテクチャ)を踏まえて、標準化と関連付けて、DVDプレーヤーに目を向けてみよう。
DVDプレーヤーの基礎的な技術は、1980年代後半から日本企業を中心に開発されてきた。当初の方式としては、ソニーとフィリップスが提唱していたMMCD(Multi-Media CD)方式と、東芝やパナソニック(当時は松下電器)など8社が提唱していたSD(Super Density Disc)方式が存在していた。
統一規格としては、これらMMCD陣営とSD陣営の計10社からなる“DVDプレーヤーコンソーシアム”から1995年に発表された(図1参照)。
その後、参画企業が増え、“DVDプレーヤーフォーラム”として、DVDプレーヤー規格の普及を目的に規格制定作業が1997年から開始した。これら、コンソーシアム、フォーラムは後の標準化団体へと発展を遂げる。最終的には20カ国から200社以上の企業が参画し、アジア各国の企業もフォーラムに多数の参加者を送り込んで、標準化が進められた。フォーラムの下位の活動単位としては、10以上のWG(Working Group)で構成された。それぞれのWGに数十社が集まるオープンな環境の中での標準化規格作成作業であったため、標準化後の市場拡大スピードの速さは目を見張るものがあった。
特許、実用新案などの知財(知的財産)は、企業にとって自社製品やそこで使われている技術そのものを守るべき大事なものである。また、知財そのものを他社に供与することで、企業自身がロイヤリティを得ることができる。その一方で、知財は公になった時点で、その情報は秘匿性がなくなり、競合企業の目にもさらされることとなる。そのため、他社に真似されるリスクと常に裏腹である。性善説的に考えて、他社の特許侵害に該当するまま、競合企業が製品を世の中に出すはずはないので、「特許に触れない範囲で“似て非なるもの”」を競合企業は自社製品として出すわけである。
さて、標準化は当たり前であるが知財戦略ではない。
知財戦略が自社製品を守るためと言うならば、標準化は、世の中に技術や当該技術を適用した製品が広く普及することを目的とした社会貢献的側面も有する。しかし、そうであったとしても、標準化を積極的に促進する…特に標準化のリーディングカンパニーの場合は、標準化によってマーケット自体が急速に大きくなるため、それに便乗し、標準化の初期段階において、一気に自社製品を世の中に知らしめることも可能だ。
一般に、標準化は、企業が保有する技術、それが電気的なインターフェースの条件や物理的な構造などを含めて、オープンにされることによって、多くの国に大量に普及し、同時に低コストで利用できるようになる。
特に「国際標準化」は、グローバル市場におけるオープン化そのものであり、巨大なマーケットの創出に他ならない。低コストで利用できるということは、消費を促進し(利益を高め)、経済活動そのものの活性化に大きく寄与する。さらに、普及するスピードの側面から考えると、そこには製品アーキテクチャが深く関係している。
製品を購入する消費者からすれば、製品が1社から独占的に販売されるよりも、多数の企業から販売される方が、自由にチョイスできるというメリットがある。企業が自らの利益を削ろうが消費者には関係なく、「企業間競争によって価格競争が起こり、その結果、製品の選択肢が増え、かつ安く購入できる」ことのほうがありがたい。標準化はまさにこのようなムーブメントをもたらす。
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