東京大学の大学院工学系研究科の研究グループは2015年11月、電気的に反転対称性を破った二層グラフェンにおいて、バレー流の生成/検出に初めて成功したと発表した。
東京大学の大学院工学系研究科の樽茶清悟教授らの研究グループは2015年11月、電気的に反転対称性を破った二層グラフェンにおいて、バレー流の生成/検出に初めて成功したと発表した。電荷の流れを伴わないバレー流は、エネルギー消費を伴わない情報媒体になると期待されている。そのため、同研究結果は、二層グラフェンによるバレー流を用いた低消費電力エレクトロニクスの開発に貢献するという。
バレーとは、電子を区別することができる結晶の性質のことを呼ぶ。固体結晶中の電子はスピン自由度に加えて異なる特性を持つ場合がある。電子は粒子としての性質を持つと同時に、量子力学的な電子の波の性質も示すことだ。電子の波は一般的にさまざまな波長や方向を持つが、一部の固体結晶中において安定な状態となる。この特定の波長や方向により結晶中の電子を区別することができ、その性質をバレーと呼んでいる。
バレーはスピン流と同様に電荷の流れを伴わず、エネルギー消費のない情報媒体として期待されているが、スピン自由度と比較するとバレー自由度は制御が難しいという課題があった。グラフェン中の電子もバレー自由度を持つことが知られており研究が進められていたが、エネルギーギャップを制御することができず、電子密度のみを制御していたため、変換効率の制御性には限界があったという。
同研究グループは、二層グラフェンの電場での制御性に着目した。単層グラフェンのままでは垂直電場により結晶の反転対称性を破ることはできない。二層グラフェンは上下の層にエネルギー差ができるため、結晶の反転対称性を破ることができる。
二層グラフェンは単層グラフェンと同様に、幾何学的位相*)を持つため、結晶の反転対称性を破り、バレーホール効果を誘起することができる。エネルギーギャップを垂直電場により制御することで、バレー流への変換効率も広範囲で制御できるという。
*)幾何学的位相:電子がエネルギー的に安定な状態に従って変化する際に、電子の波の位相に生じるずれのこと。
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