水晶よりも高性能、低消費電力、小型な発振器を実現できるとして、シリコンMEMS発振器が少しずつシェアを拡大している。そうした中、ロシアの研究所が、ダイヤモンド基板を使ったMEMS発振子を発表した。
Moscow Institute of Physics and Technology(MIPT:モスクワ物理工科大学)は、ダイヤモンド基板の圧電効果を利用したMEMS半導体を発表した。シリコンよりも高速で発振するとして、超高感度センサー向けに開発されたという。
同技術は、超硬質カーボン材料の開発を手掛けるロシアの国立研究所「Technology Institute for Superhard and Novel Carbon Materials(TISNCM)」とSiberian Federal University(シベリア連邦大学)が共同開発した。
このダイヤモンド基板MEMS発振子は、周波数が20GHz以上、Q値が2000以上と革新的な性能を誇る。高速のクロック信号を生成するためだけでなく、バクテリアやナノスケールの粒子の毒性物質を検出するバイオセンサー向けSAW(弾性表面波)/BAW(バルク表面波)発振子としても利用できるという。
TISNCMのArseniy Telichko氏は、EE Timesに対して、「高周波のSAW/BAW発振子に関する論文の中には、高周波とうたっていても10GHz以下の周波数で、Q値が低いものもある。われわれの開発したダイヤモンドデバイスは、厚みや幅、電極材料などのあらゆる条件を調整することで数十GHzで動作できるため、バクテリアなどの検出にも対応できる」と説明した。
同研究チームは、「われわれが開発している発振子は、高圧高温(HPHT)蒸着法を調整することで、他の研究チームの発振子よりも優れた性能を発揮できる。他のチームは、低成長CVD(化学的気相成長)法を使っている。これに対し、TISNCMのHPHT蒸着法は、高速なだけでなく、より質の高い結晶格子を形成できる」と主張している。
Telichko氏は、EE Timesに対して、「重要なのは、他の研究論文は通常、比較的低速なカーボン蒸着で形成したCVDダイヤモンドを使っているという点だ。この場合、ダイヤモンドの結晶は、薄膜を形成しながらゆっくり成長する。しかし、こうしたCVD成長ではダイヤモンドに大きな圧力がかかり、結晶内部で不整合が発生してしまう。これに対し、われわれは、HPHT法で成長させた高純度カーボンの合成単結晶ダイヤモンドを使用している。このダイヤモンドは、内部圧力を最小限に抑えた構造になっている。われわれが開発した単結晶ダイヤモンドは高周波で動作し、Q値が高く、CVDダイヤモンドと比べて全般的に優れた特性を備えている」と語った。
この高純度結晶基板を使った高性能アプリケーションを実現させるポイントとなるのは、基板上に積層した圧電材料を、2種類の金属(アルミニウムとモリブデン)に挟む技術だ。同技術によって、高周波かつ高Q値の発振子構造を作ることができるという。
これまでMIPTは、実験的にダイヤモンドベースの発振子を製造し、20GHz以上で発振することを確認している。Telichko氏は「これは世界でも最高クラスだ」と主張した。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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