図2は、過去のLSI社を取り巻く半導体メーカーの関係図である。LSI社のダイに刻まれる「Agere」のロゴは、LSI社の前身の1社であるAgere Systemsのものだ。LSI社は2007年にLSI LogicとAgereが統合して生まれたという経緯を持つ。
LSI Logicは主に、大規模なカスタムLSIであるASICを中心に成長した会社で無線通信チップは扱っていなかった。そこにベースバンドLSIを含む通信用半導体を手掛けるAgereと合併し、LSI社として販売を行ったものであった。ちなみに、Agereは2002年に通信機器メーカーのLucent Technologies(現Alcatel-Lucent)の半導体部門が分離独立する形で誕生したメーカーだ。さらに、そのLucentも1996年に米国の電話会社AT&Tから分割された企業。つまりLSI社の通信用半導体事業のルーツはAT&Tにあるのだ。
携帯電話機全盛期の2007年にAT&TをルーツとするAgereはLSI社として再スタートしたわけだが、にもかかわらず、LSI社は旧Agereの主力である通信用半導体事業には注力することはなく同じ2007年に、Infineon Technologiesに売却してしまうのだ(図2の緑色の矢印1)。
それならば、最初からInfineonがAgereを買えばよかったように思えるが、LSI LogicがAgereと合併したことにはそれなりの理由があったのだ。
実は、LSI社はInfineonに通信用半導体事業を売却したのとほぼ同時期にInfineonからストレージ向け半導体事業を買収している。つまり、LSI Logicは、圧倒的な強いストレージ事業を作るという目的の下に、Infineonが興味を持つ無線通信用半導体事業を手掛けるAgereを合併という形でいったん手中に収め、それを切り札にしてInfineonと交渉。真の狙いであるストレージ向け半導体事業を通信用半導体事業と交換という形で手に入れたということになる。
なお、LSI社はその後、SSDコントローラーで先行していたSandForceなども買収しストレージ市場で成長を続けた後、2013年にAvago Technologies(現Broadcom)に買収されている。
AT&Tをルーツとする無線通信用半導体事業を手に入れたInfineonだが2010年に、同事業をIntelに売却している(図2の青色矢印4)。Infineonは、ベースバンド事業だけでなく、図2の青色矢印2のように、携帯電話機向けの無線用パワーアンプ事業も2008年にAvago Technologiesへ売却。有線通信向け半導体事業を2009年にLantiqとして独立させている(そのLantiqは2015年Intelに買収されている:図2の赤色矢印3)。
Infineonは2007年に、LSI社から通信用半導体事業を買収したものの、翌2008年からすべての通信関連の半導体事業をAvago、Intelに売り出したのだ。
Infineonから買った側のAvago、現BroadcomのルーツはHewlett-Packard(HP)の半導体事業部門(途中、HPから独立したAgilent Technologiesの半導体事業部門時代を経る)。一方で最終的にIntelが手に入れた通信用半導体事業のルーツは前記のようにAT&T。近年の半導体事業の紆余(うよ)曲折は、ともに米国を代表する老舗企業を起源とする半導体事業の分社独立に端を発している。老舗企業は2000年前後にこぞって半導体部門を独立させている。それがさまざまなルートを経て現在のBroadcom、Intelに至っている。
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