2000年代後半から2010年代前半にかけて、携帯電話機用半導体事業の売買が企業間で繰り返された。今、思えば本格的なスマートフォン、チップセット時代の到来を目前に控え、携帯電話機用半導体事業という「ジョーカー」を巡る「ババ抜き」だったのかもしれない――。
今から7〜8年ほど前の2000年代半ば、アジアで売られた携帯電話機には、現在とは大きく顔ぶれが異なるメーカーのベースバンドLSIが採用されていた。2000年代半ばの主な携帯電話機向けベースバンドLSIメーカーは、当時最大手の携帯電話機メーカーNokia向けで強いポジションを築いていたTexas Instruments(TI)を筆頭にNXP Semiconductors、Analog Devices(ADI)、LSI Corporation(LSI社)などであった。
ただ、これらのメーカーは、すぐに携帯電話機向けベースバンドLSI市場から姿を消す。TIは2000年代後半に撤退。ADIは2007年に事業をMediaTekに売却。NXPも2009年にSTMicroelectronicsとEricssonの合弁会社ST-Ericsson(現在はEricssonに集約)に事業を譲渡している。
図1のLSI社のロゴが搭載されたSamsung Electronicsの携帯電話機は当時、手のひらに乗るサイズとリボルバー式の形状が話題になり、アジア地域の多くのユーザーに愛用された製品である。
この携帯電話機の基板をみると、LSI社のベースバンドとアプリケーション(簡易な機能を実行する)を統合したLSIとRFトランシーバーLSIのチップセットで構成されていた。現在のスマートフォンでも使用されるチップセットの構成の原型ともいえる。すなわち2つのチップで携帯電話機の骨格が完成しているわけだ。
ベースバンドLSIのパッケージにLSI社のロゴがあるので、中身のダイもLSI社の手によるものかと思えば、そうではない。チップを開封して内部のダイを観察すると「Agere」のロゴ、コピーライトマークが搭載されている。
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