そうした可能性を秘めるルネサスで、呉氏が目指すのは「ワールドカップでの優勝」、すなわち、“世界ナンバーワン”の地位だ。とはいえ、世界半導体シェア1位を目指すわけではなく、「戦略的セグメントにおける“優勝”」を目指すという。
呉氏は、IDM(垂直統合)型ビジネスモデル、水平分業型ビジネスモデルと変遷してきた半導体業界のビジネスモデルの主流として、今後、特定用途分野に特化した「セグメント特化型ビジネスモデル」が主流となり、セグメント特化が業界で勝ち組になるための条件の1つとして挙げた。
「各セグメントでの競争は、世界3位でブレークイーブン(損益ゼロ)、4位や5位では、数年先はないというような、厳しい競争になる。競争に挑むには、優勝を目指し、結果、悪くても2位というぐらいでないといけない」と、セグメントに特化しながら、世界ナンバーワンを目指す姿勢が重要であると強調した。
ルネサスが今後、優勝を目指していく具体的なセグメントについては、自動車制御・情報、産業、インフラなど向けの分野で設定していく方針で、「車載半導体、車載マイコンといった単位ではなく、車載マイコンの中でも4〜5つの領域に分け、そこから優勝を目指す戦略的セグメントを選ぶ。選ぶ上で自動運転やUSB Power Deliveryなど、これから市場が形成されるようなセグメントを重視しつつ、今秋ごろには30ほどの戦略的セグメントを決めて公表したい」という。
呉氏は、セグメント特化とともに、半導体業界で勝ち組になるための条件として、「独立系半導体専業」を挙げる。既に、ルネサスは事業母体3社(NEC、日立製作所、三菱電機)の出資比率を下げ、独立系半導体専業メーカーと呼べる状況にあるにもかかわらず会見中、独立系半導体企業であることの重要性を何度も強調した。
現在、ルネサス株式の7割近くは、産業革新機構が持つ。その産業革新機構保有株の売却禁止期間が2015年9月に解け、産業革新機構は売却先を探している状況にある。売却先候補には、呉氏の出身企業でもある日本電産などが含まれ、ルネサスが特定企業の傘下に入る可能性もある。「株式の売却先は、産業革新機構が決めること」としながらも、経営の独立性が奪われる可能性のある特定企業の傘下に入る形での株式売却は「好ましくない」とし、けん制した形だ。
「世界の半導体業界を見ても、機関投資家が半導体メーカーの株式を持っている場合が多い。既に、(トヨタ自動車やデンソー、パナソニックなど)多くの顧客から出資をいただき、パートナー関係にある。日本電産を含む顧客からも少しずつ株式を持ってもらうことはウエルカム(歓迎)だが、特定1社の傘下で、その特定1社の競合と取引できないというような状況は好ましくない」との見解を示した。
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