物質・材料研究機構(NIMS)は2016年7月7日、有毒ガスにさらされると導電性が大きく上昇するセンサー材料を開発したと発表した。NFC(近距離無線通信)タグの電子回路内に同センサー材料を組み込むと、スマートフォンで10ppmの有毒ガスを5秒で検知できるという。
物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点のフロンティア分子グループで主任研究員を務める石原伸輔氏は2016年7月7日、有毒ガスにさらされると導電性が大きく上昇するセンサー材料を開発したと発表した。
また、NFC(近距離無線通信)タグの電子回路内に同センサー材料を組み込み、スマートフォン(スマホ)で10ppmの有毒ガスを5秒で検知できることも実証したという。
このセンサー材料は、弱い相互作用で分子が連結した「超分子ポリマー」と呼ばれる高分子でカーボンナノチューブ(CNT)の表面を覆ったもの。これが求電子性*)の有毒ガスにさらされると、導電性が最大3000%上昇するという。
*):化学反応において、電子を受け取る側、奪う側の化学種を指す。化学的な反応性が高く、急性毒性を示すものが多い。化学兵器の多くが求電子性化学物質に分類される。
CNTは本来電気の流れやすい材料だが、超分子ポリマーは絶縁被膜の役割を果たし、CNTを電気が流れにくい状態にする。特に、超分子ポリマー中に含まれるオキシム基(C=N-OH)は、サリンなど神経ガスの解毒剤として知られる2-PAMに似せた化学構造。サリンやホスゲンを含む幅広い種類の求電子性有毒ガスと高い反応性を示すという。これにより被覆が破壊され、CNTの導電性が元の高い状態に戻る。導電性の変化量は、有毒ガスの濃度と被ばく時間に比例し、市販の抵抗計で容易に検知できるとしている。
同研究チームが実際に、超分子ポリマーで被覆されたCNTをサリンやホスゲンなどの有毒ガスにさらしたところ、最大3000%の導電性の上昇を示した。水やエタノール、ヘキサンなど環境中に存在する蒸気に同センサーをさらすと、導電性は数%減少するのみで、同センサーが有毒ガスセンサーに特異的に反応することが確認されたとする。
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