物質・材料研究機構(NIMS)は2016年7月、モバイル機器に実装可能な小型サイズで質量分析器を実現できる可能性がある新しい質量分析手法を開発したと発表した。
物質の分子量を調べることで、物質の種類を特定できる「質量分析」が個人レベルでも実現できるかもしれない――。
物質・材料研究機構(NIMS)の柴弘太氏と吉川元起氏の研究グループは2016年7月14日、真空やイオン化などを必要とせず、携帯可能な小型デバイスで質量分析が行える可能性のある新たな質量分析法を開発した。
質量分析は、食品、医療をはじめ、環境、農業、化粧品、さらには犯罪捜査などでも使用される。質量分析により、呼気による健康チェックや口臭/体臭測定、室内環境の測定、動植物の状態管理、有毒ガスの漏出検査なども実現できる。
だが、質量分析を行う装置は、大規模かつ高価で、個人レベルで所有するのは極めて難しい。現状の質量分析法は、真空中で分子に電子を衝突させるなどし、分子をイオン化し、そこに電場や磁場をかけて、分子量に応じて飛ぶ方向が変わることを利用し気体分子量の測定を行う。タンパク質などの質量分析を行うためのイオン化法を開発したことで2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏の業績も、こうしたイオン化を伴う質量分析の基本原理に基づくものだった。
今回、NIMSの柴氏と吉川氏が開発した質量分析法は、真空、イオン化を伴う従来手法とは全く異なる原理であり、「簡便に大気中でリアルタイムに気体分子量が測定できる新たな質量分析法」とする。
開発した原理は、片方が固定された片持ち梁(はり)状の構造物(=カンチレバー)に、気体分子が当たる際、気体分子の重さに応じて構造物のたわみ方が異なるというもの。たわみ方の違い(変形量)で分子量を測定、すなわち、質量分析が実現できるというものだ。NIMSは「当たり前にも思えるこの原理は、これまで全く報告されておらず、従来よりも極めて小型で安価な質量分析装置を実現できる画期的な発見と考えられる」とする。
研究グループでは実際に、シリコン製のマイクロカンチレバーや紙製の名刺を用いて、そこに気体を吹き当てた時に生じる変形量が、気体の分子量によって異なることを確認したという。
まず、名刺を用いた実験は、手で持った名刺に窒素やアルゴンを一定流量で吹きかけ、変化量(たわみ)を測定。その変化量をプロットしたところ「解析解とよく一致していることが分かった」(NIMS)と結論付ける。
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