米国家運輸安全委員会(NTSB:National Transportation Safety Board)は、Tesla Motors(テスラ・モーターズ)の2015年モデル「Model S」が2016年5月に、オートパイロット(自動運転)機能で走行中に起こした死亡事故について、調査を開始したと発表した。
この事故については、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)と米国フロリダ州ハイウェイパトロールが既に調査を開始しているが、NTSBはこれらの機関からは独立した調査を行っていく。
今回、新たに別の連邦政府機関が事故の調査に乗り出したことで、Tesla Motors(テスラ・モーターズ)が推進している半自動運転機能の中でも、特にオートパイロット機能に対する監視が確実に強化されることになるだろう。
今回の事故原因としては、オートパイロット機能で運転していたドライバーの不注意が挙げられているが、調査チームはこれ以外にも、Teslaのオートパイロット機能に重点的にプログラムされているソフトウェアについて、詳しく調査していくようだ。Tesla車は、市場に出回っている他の自動車とは異なり、完全にソフトウェア中心型であるため、ソフトウェアアップデートによって新機能を追加することが可能だという。
今回のNTSBの動きから、NHTSAの調査能力がいかに疑問視されているかが浮き彫りになった。自動車業界の主要規制機関であるNHTSAが、十分な知識や技術能力を備えているのかどうか、また、特にTeslaのオートパイロット機能の心臓部ともいえるソフトウェア関連の問題について、今回の事故を適切に調査できるだけの十分なリソースと権限を持っているのかどうかを、疑問視する声が上がっている。
自動運転車は、現在まだ開発規制がなされていない。しかし、NTSBが調査を行うことで、自動運転技術の実現を急ぐ業界全体に対し、リセットボタンが押されることになる可能性がある。
GoogleやTeslaなどの技術メーカーや、既存の自動車OEMメーカーなどはこれまで、ほとんど監視されることなく、確立された試験プロトコルも存在しない中で、自社開発の自動運転技術の実験を行ってきた。
NTSBの今回の責務は、事故に関する調査を行うことであり、規制を策定することではない。しかしNTSBは、独立機関として、自動運転車の安全性の向上に関心があることを示している。
NTSBの広報担当者であるChristopher O'Neil氏は、EE Timesのインタビューの中で、NTSBとNHTSAの調査の相違点について問われると、「NHTSAは、対応すべき欠陥があるかどうかを判断することを最重要目的として調査を行う。一方NTSBは、より包括的な調査を行うことで、今後の自動運転車の開発や、自動運転車関連の事故調査などに向けて情報を提供できるような、組織的な問題があるかどうかを明らかにしていく」と述べている。
O'Neil氏は、「NTSBはこれまでにも、衝突防止システムなどの最先端の安全技術を提唱するといった成果を挙げている」と付け加えた。
米国の市場調査会社であるStrategy Analyticsのグローバルオートモーティブ部門でアソシエートディレクターを務めるRoger Lanctot氏は、EE Timesのインタビューに応じ、「ソフトウェアに焦点を当てて事故を調査するということは、NHTSAの調査可能な範囲を超えることになる」と述べている。
NHTSAが最終的に航空宇宙局(NASA)に協力を求めたのに際し、Lanctot氏はトヨタ自動車の急加速問題の調査に言及した。同氏は「NHTSAにはソフトウェアに関連した優れた実績がない」と述べた。
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