なぜ、ソフトバンクはARMを買収したのか? 狙いはどこにあるのか? いろいろな見方が広がっている中で、いま一度、ソフトバンクが行ってきた大きな投資を振り返りながら、ARM買収の意味を考えた。
2016年7月18日にソフトバンクグループ(以下、ソフトバンク)が、ARM買収を発表して以来、連日、メディアでは“なぜARMを買収するのか”という分析が行われている。筆者自身も、7月19日付で「IoTの源流を押さえた?:“IoTの勝者 ARM”買収でソフトバンクが狙うもの」と題した記事を、大慌てで書いた。正直、思い付くままに書き殴ったこともあり、書き切れなかったことも多く、あらためて今回の買収劇を考えてみたいと思い、このコラムを書くことにした。
「なぜ、ソフトバンク、孫正義氏(ソフトバンクグループ社長)はARM買収に至ったか?」を探るためにも、過去にソフトバンク、孫氏が行ってきたことからヒントを得ようと思う。
そんな中で、1990年代前半に、孫氏にインタビューした経験があるという先輩編集者から当時の取材内容を聞いた。先輩編集者いわく、インターネット普及前夜の孫氏は、インタビュー中、ほとんどの時間を「インターネット5段活用」という持論を展開したという(残念ながら当時の雑誌記事がなく、先輩編集者の記憶に頼っているため、正しいかどうかは分からない)。
この“インターネット5段活用”というのは、インターネットの世界を5つのレイヤーに分けることができるというもの。5つのレイヤーとは、「1.ハードウェア」「2.ソフトウェア」「3.ネットワークインフラ」「4.ネットワークサービス」「5.コンテンツ」だという。そして、1.ハードウェアから順に市場が形成され、最終的に5.コンテンツの市場が出来上がるというものだそうだ。
この“インターネット5段活用”が本当に孫氏の考えかどうかは分からないが、この5つのレイヤーを軸に考えていけば、分かりやすそうなので、5つのレイヤーで、ソフトバンクのこれまでを振り返っていきたい。
なお、図では、「1.ハードウェア」を頂点に、「5.コンテンツ」を底辺にした三角形、ピラミッド型で描いた。各レイヤーの市場規模の大きさを表現したつもりだ(実際はここまで整った三角形ではないと思うが)。
まず、先輩編集者が孫氏にインタビューしたという1990年代半ばは、ちょうど孫氏のいう「PCインターネット」というパラダイムシフトが起きつつあった時期だ。
それまでのソフトバンクは、インターネットにつながっていないオフラインのPCの世界で、日本国内でソフトウェア流通を担った。5つのレイヤーでいえば、5.コンテンツで事業を興し、成功していた。ちなみに、インターネット普及前夜のオフラインPCの世界では、3と4のレイヤーは存在せず、2.ソフトウェアは「MS-DOS」のMicrosoft、1.ハードウェアは国内に限れば、PC-98のNECが牛耳っていたといえるだろう。
そして、先輩編集者が取材したころの孫氏は、PCインターネットというパラダイムシフトを迎えるに当たり、2つの大きな投資を行う。なお、孫氏はARM買収会見で「これまでパラダイムシフトの入り口で大きな賭けを行ってきた」と話している。
孫氏のPCインターネットというパラダイムシフトに向けた賭けの1つは、1995年に米国の出版社Ziff Davisを傘下に収めたことだ。この投資は、それまで成功してきた5.コンテンツレイヤーでの対応策といえる。そして、もう1つの賭けが1996年のYahooとの合弁によるヤフージャパンの設立だ。
これにより、PCインターネットで出現した、新しいレイヤーである4.ネットワークサービス(ポータルサービス)に進出した。こうした賭けの結果は、5.コンテンツはあまりうまくいかなかったが、ヤフージャパンは一定の成功を収めた。
ちなみに言うまでもないが、PCインターネット時代の1.ハードウェアと2.ソフトウェアは、“Wintel”としてIntelとMicrosoftが牛耳った。言い換えれば、IntelとMicrosoftの2社が、PCインターネットの共通基盤(=プラットフォーム)を形成した。
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