ソシオネクスト欧州支社のSoC設計チームでは、トップクラスの人材が複数、同社を退職したようだ。2015年3月に発足して以来、ソシオネクストは迷走しているように見える。
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EE Timesのこれまでの取材で、ソシオネクストの欧州支社であるSocionext Europe(以下、Socionext)内外の複数の情報筋が「トップクラスの技術人材または経営人材」と評した社員のうち少なくとも4人(あるいは5人)が既に同社を去っていることが分かった。それらの社員は2016年8月1日付でAcacia Communications(以下、Acacia)に入社したとみられる。
この事態はSocionextにとって二重の苦難である。まず、ソシオネクストは(富士通とパナソニックのシステムLSI設計開発部門を統合したとはいえ)2015年3月に発足したばかりの企業である。同社の柱とされている事業部門を、主要メンバーを欠いた中でどう存続していくのか、その方法を見いださなくてはならない。
その上、シリコンフォトニクスとDSPの専門知識で知られるAcaciaが、突如として高速D-Aコンバーター(DAC)やA-Dコンバーター(ADC)の豊富な経験を持つ、層の厚い人材を得たのである。
Acaciaは、100Gビット対応のルーターやスイッチに直接差し込めるDigital Coherent Optics(DCO)市場の力学を一挙に変える可能性を手にした。
M&Aでは、従業員の離職はある程度見込まれるものだ。それは企業が準備しておくことのできる“想定内のリスク”といえる。だが、実際にSocionextが、これほどの人材流出が早い段階で起きることを予見していたかどうかは不明である。ましてや、同社がそれに備えることができたかどうかは、もっと分からない。
Socionextを去った人材は、全員が同社の光ネットワークSoC(System on Chip)設計チームの高度な技術スタッフだった。彼らは正真正銘の差異化技術(カスタムASIC、IP[Intellectual Property]、長距離光ネットワーク機器向けの高速ADCやDACなど)を設計する上で重要な役割を担っていた。
これらのチップは外側からは見えない。光ネットワーク機器には不可欠な部品であり、NokiaやHuawei、Cisco Systemsなどが設計した通信機器の奥深くに組み込まれている。ソシオネクストはそのようなチップの世界市場を独占しており、シェアは85%に及ぶともいわれている。
複数の情報筋がEE Timesに語ったところによると、ソシオネクストの投資家のうち、特に日本政策投資銀行(DBJ)は、合併を立案する際、英国に拠点を置くネットワークSoC設計チームを同社の“重要資産”と見なしていた。ソシオネクストの株主構成は、富士通が40%、パナソニックが20%、DBJが40%である。
ここ数カ月や数週間で、ソシオネクストは設計チームの頭脳流出を止めようと、重役を英国に派遣した。だが、土壇場での慌ただしく唐突ともいえる説得策では、離職を食い止めることはできなかったようだ。
ある情報筋が指摘した通りなら、Acaciaに流出した以外の、経験が浅いエンジニアから中堅のエンジニアまでも、履歴書を手に路頭に迷っているとみられる。
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