村田製作所はスマートフォンビジネスで強気の姿勢を崩していない。スマートフォン市場が成熟期に入りつつある中で、どのように成長を図っていくのか? 通信モジュール事業などを担当する同社取締役常務執行役員の中島規巨氏に聞いた。
2015年度(2016年3月期)売上高1兆2108億円、営業利益2754億円。売上高、利益ともに過去最高業績を更新した村田製作所。近年の好業績を支えているのは、スマートフォン向け電子部品/通信モジュール事業だ。売上高の6割超を、スマートフォンを中心とした通信用途向けが占める。
一方で、世界のスマートフォン市場に目を移すと、端末出荷台数の成長に明らかに陰りがみえる。スマートフォン市場は成熟期に入り、これまでのような急成長は期待できない状況にある。
そうした中で、当然、スマートフォン依存度の高い村田製作所も苦戦を強いられるとみられるが、今期2016年度も為替影響などにより減益こそ見込むが、売上高は増収、すなわち、過去最高を更新する計画を立てる。そして、スマートフォン向けでも増収の計画を立てている。
成熟期に入ったスマートフォン市場で、村田製作所はどのようにビジネスを拡大していくつもりなのか――。同社取締役常務執行役員で通信・センサ事業本部長を務める中島規巨氏にスマートフォン向けビジネス戦略を聞いた。
EE Times Japan(以下、EETJ) 担当されている通信モジュール事業は、スマートフォン向けを中心にかなり高いシェアを持つ事業に成長しました。成功の要因をどのように分析していますか。
中島規巨氏 過去から戦略的に特定顧客に対し、手厚いビジネスを展開するということをせず、顧客のカバレッジを広げることに重点を置いてきた。だからこそ、1990年代であればNokiaやEricssonなど、2000年代であればSamsung Electronics、Appleなど、その時々の大手メーカーに入り込め、結果として、通信モジュールでのメインプレーヤーでいることができた。
加えて、市場が急成長する中で、投資判断、リソースのシフトのスピード感が重要で、重点的に取り組んできた。
EETJ 技術面での成功要因はありますか。
中島氏 通信は、技術的にそんなに難しくないと思っている。いわゆる2G(第2世代移動通信)から始まり、3G、LTEと来て、次は5Gがある。通信速度が世代とともに速くなることに対して「通信技術はどのようにならなければいけないか」ということが分かりやすい。「この先、どのようなフィルターが必要になるか」「このようなアクティブデバイスが必要になるだろう」など、ある程度、読みやすい市場だと思っている。
そこに対し「どれだけ早く手を打てるか」ということが鍵だと思っている。
EETJ 技術進化の道筋が明確な中で、他社に先んじて、投資を行ってきたということですね。
中島氏 常に先手を打ってきた。結局、市場が急成長するタイミングが段階的にあり、そのタイミングで大きな投資が必要になる。そうした投資が行える状況に合ったかどうかで(競合との優劣が)変わってくる。
もう1つは、エコシステムの話になる。われわれの競合は主に米国企業になるが、そうした競合は水平分業でスピード感を持っている。パートナーと一緒になって1つのモノを作り上げている。それに対しムラタは、スピード感を上げるために、過度な自前主義はダメだとは思うが、垂直統合モデルの方が適しているのではないか、ということで、アクティブデバイス事業の買収などを繰り返して、内部で全て完結するようにしてきた。このことがスピード感につながると考え、取り組んで来た。
とはいえ、まだ、競合との勝負はついていないと思う。
EETJ 競合のSkyworksは、パナソニックのSAW(表面弾性波)フィルター事業を買収(2014年4月)などしています。
中島氏 他にも競合は、内製化を強化する動きがあり、どちらかといえば今は、(水平分業と垂直統合の)ハイブリッド化が進んでいるといえるだろう。半導体は自前で生産する動きは少なく、ファブライトの方向にある。しかし、半導体以外は、社内に取り込んでいこうというアプローチになっていると分析している。
こうなっている要因は全て“スピード”のためだ。
EETJ 垂直統合と水平分業ではどの程度、スピードは変わるのですか。
中島氏 サードパーティーから購入するとなれば、取引きに“スペック”というものが存在するようになる。サードパーティーと取引きする度に、品質や性能といった“スペック”をクリアしなければならなくなる。
分かりやすい例を挙げると、高周波の領域では、特性インピーダンスを50Ωにしなければならない。水平分業では、各部品で50Ωにしなければならない。しかし、内製であれば、個々の部品で50Ωにする必要はなく、「パワーアンプとSAWフィルターの間は、性能特性を最大化するには30Ωで整合すれば良い」ということができ、開発スピードも性能も上がり、アドバンテージが出せる。
こうしたすり合わせを2社、3社といったパートナー企業間でするには、限界が来ているのだと思う。
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