今回は、半導体露光技術の歴史の完結編(その1)をお届けする。1996年ごろに本格的に導入され始めたKrFステッパーだが、既に2つの課題が浮上していた。光学系の開口数(N.A.)の向上の限界と、シリコンダイが大きくなり過ぎていたことだ。これらを解決する手段として登場したのが「スキャナー」である。
半導体製造装置と半導体製造用材料に関する北米最大の展示会「SEMICON West 2016」が7月12日〜14日に米国カリフォルニア州サンフランシスコのモスコーンセンター(Moscone Center)で開催された。12日には「FORUM」(フォーラム)と称する併設の講演会があり、専門テーマに関する解説や展望などを数多くの研究者や技術者、経営者などが発表した。
前回は、ニコンの米国子会社であるNikon Research Corporation of AmericaでDirector of Computational LithographyをつとめるStephen Renwick氏の講演を補完する目的で、露光技術の進化を1980年代半ばから1990年代半ばまで振り返った。
前回の末尾で説明したように、KrFレーザー(波長248nm)を光源とするステッパー(KrFステッパー)が本格的に導入され始めたのは、1996〜1997年である。
しかし1990年代前半には既に、KrFステッパーの限界がリソグラフィの研究開発コミュニティーでは議論されていた。主に問題は2つあった。1つは、光学系の開口数(N.A.)の向上が限界に達しつつあったこと。屈折レンズはわずかながらも歪み(ひずみ)を抱えており、レンズの中央部では歪みが少なく、周縁部(端部)では歪みが大きくなる傾向がある。ステッパーでは丸いレンズに対して正方形マスクのパターンを当てはめるように光を照射するので、正方形の四隅付近では、露光パターンがボケやすい。歪みを一定の比率以下に抑制しながらレンズのN.A.を上げることは、極めて困難になりつつあった。
もう1つは、最先端の大容量DRAMや大規模プロセッサなどではシリコンダイの寸法があまりにも大きくなってきたことだ。ステッパーの光照射パターンの最大値は22mm×22mmの正方形である。ところが、例えば1992年2月に開催された最先端半導体チップの国際学会ISSCCでNECが発表した64MビットDRAMシリコンダイの寸法は既に、19.48mm×9.55mmもあった(設計ルールは0.4μm)。22mm角の露光領域に対してわずか2枚のシリコンダイしか取れない大きさである。
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