さて、前回のコラムで、私は、自殺を減らす方法は、
ということを、わが国の薬物自殺のハード戦略の成果(45%/1955年→2%/2014年)を引き合いにして論を展開しました。
ならば、「日本中のホームドアの設置」というハード戦略を提言して、この連載を終了してしまってもいいような気もします。
ところが、そう簡単な話にはならないようなのです。
国土交通省は、2001年に「ホーム柵等の設置促進に関する検討会」を設けて、2003年に「ホーム柵の設置は(中略)検討を進めていく必要がある」とする報告書を提出した上で、全国の鉄道会社に
「1日当たりの平均5000人以上の利用者がある駅は、2010年(6年前)までに、原則としてすべて、ホームドア等の転落防止設備の整備等の移動等円滑化を実施すること」
という指示を出しています。
で、現状のホームドア等の設置状況がどうなっているかというと、
という、散々な進捗(しんちょく)状態にあります。
しかし、一概に鉄道会社に責めを負わすことはできません。このようにホームドアなどの設置が進まないのには、以下の理由があるからです。
(1)既設の駅では設置が難しい
電車が止まる深夜にしか設置作業ができないからです。これは、ホームドアが設置されている駅の多くが、新設の路線の駅だったことからも明らかです。
(2)設置コストが高い
JR西日本の東西線北新地駅の設置費用は約3億5000万円といわれていますし、ひと駅で15億円(恵比寿駅や目黒駅)、あるいは19億円程度(山手線各駅)になるという見積もりもあります。
加えて、注意して頂きたいのは、これは設置費用のみで、運用やメンテナンスのコストは入っていないということです。
(3)車両を交換する必要がある
扉の位置が異なる複数の種類の列車が運行している路線ではホームドアの設置ができないからです(車両を全部入れ替えるしかない)。ちなみに車両の値段は、「通勤電車は約1億円、新幹線は約3億円」が、1両当たりの新車価格の相場なのだそうです(参考)。8車両の通勤電車で8億円もの追加費用が発生します。
さて、「高い」「高い」と連呼するだけでは、この「数字で世界を回してみよう」の連載担当者としての沽券(こけん)にかかわります。ここは荒唐無稽であったとしても、筋の通ったシナリオで、ロジックを組み立ててみたいと思います。
というわけで、毎度毎度、巻き込んでしまって本当に申し訳ないのですが、今回も小田急電鉄さんの基本データ(駅数、人身事故数)を使わせていただきます。
以下が、この私が、「この世のあらん限りのIF(もしも)を重ねた」、机上シミュレーション結果です。
この結果、ホームドアのコストは、約23.3億円/年となりました。
一方、人身事故による被害額(乗客の被害総額ですが)、これは「エバ電シミュレーター」から導いた60分コースの被害額(約5000万円)*)に、10年間の平均人身事故数17.6件を乗算して、8.36億円/年程度と、無理やり算出してみました。
*)飛び込み自殺による平均遅延時間70分を参考にした。
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