「世界初」の後付けスマートロックである「Akerun」。同製品を手掛けるフォトシンス社長の河瀬航大氏は、「イノベーション・ジャパン」(2016年8月25〜26日/東京ビッグサイト)で講演を行い、Akerunが生まれた背景や、IoTスタートアップが乗り越えるべき3つの壁について語った。同社がAkerunを通して目指すのは、“物理的な鍵からの解放”だ。
未来の扉を開ける鍵、それがAkerunである――。
スマートロックロボット「Akerun」を手掛けるフォトシンス社長の河瀬航大氏は、「イノベーション・ジャパン」(2016年8月25〜26日/東京ビッグサイト)で開催されたセミナー「IoTスタートアップが乗り越えるべき壁」で、こう語った。
Akerunとは、同社が2015年4月に発表した「世界初」の後付けスマートロックである。ドアに取り付けたAkerun本体とスマートフォンをBluetooth Low Energyで認証することで、鍵の開け閉めができる仕組みである。今使用している鍵を取り換えることなく、工事と工具不要で取り付け可能。家族や友人と鍵のシェアや、利用履歴の確認もでき、ドアが閉まると自動的に鍵を閉めてくれるオートロック機能なども搭載している。
用途としては、家庭用としてだけでなく、ホテルへのチェックインや不動産の内覧、空きスペースの有効活用、子どもや高齢者の見守りなどが考えられるという。同社はこれまでも、NTTドコモとともにホテルのチェックインをWeb上で完結させるシステムの展開や、三井不動産との「どこでもオフィスプロジェクト」などを既に進めている。どこでもオフィスプロジェクトは、三井ビルの空いているオフィスにAkerunを設置することで、三井不動産社員らが“どこでもオフィス”として自由に利用できる取り組みだ。
スマートフォンをなくしたときはどうするのかという疑問を持つ人がいるかもしれない。その時は、クレジットカードを落としたときと同じように、サポートセンターやWeb上の管理システムから、スマートフォンにある鍵の権限を剥奪できる。その後、家に入るためには、「他の人のスマートフォンから自分のIDとパスワードを入力する方法がある。最悪の場合、物理的な鍵を持っていれば問題はない」(河瀬氏)と語る。
セキュリティ面では、「AES-256」の暗号化機能を備えるのに加えて、外部の企業からハッキングをわざとしてもらい、セキュリティホールがないか確認しているとする。
河瀬氏は、「Akerunが生まれたのは、たわいもない飲み会がきっかけだった」と語る。同社の共同創設者は河瀬氏を含めて6人いるが、その内の4人はもともと仲が良く、起業前からよく飲み会をしていたという。ある日の飲み会で、4人のうちの1人が、たまたま鍵をなくしてしまい、家に帰れなくなってしまった。
「そこから、飲み会は“鍵って面倒くさいよね”という話で盛り上がった。例えば、オフィスに鍵を忘れて、家に着いたのにもう1度オフィスに戻った経験がある人も多いのではないだろうか。寒い日は、かばんから鍵を取り出すのも面倒である。私たちの生活は、“鍵をなくさないこと”にとらわれている感覚がある。鍵を意識しない生活は美しいし、これからの時代に当たり前になるよねという話をした」(河瀬氏)
そこで、スマートフォンを鍵にする目的の“週末プロジェクト”が始まった。当初は起業する気がなく、目的を達成しようというワクワク感が原動力だったとする。
世界初の後付け型を選択したのも、週末プロジェクトから始まったことによる影響が大きい。河瀬氏は、「扉の中に無線通信モジュールを直接組み込むケースロック式が良いという声もあると思う。しかし、ケースロック式では、自分たちの今住んでいる家で実装できない。そのため、後付け型の製品を開発することに決めた。趣味の一環として基礎研究を続けてきて、初めてAkerunが動作したときの感動は忘れられない」と語る。
転機は、2014年7月27日に訪れた。日本経済新聞に週末プロジェクトが掲載されたことで、量産化を決めていないのに100件を超える問い合わせ、起業していないのに多数の事業提携の依頼が届いた。その時、鍵には多くの潜在市場があると気付いたという。
例えば、紛失して警察に届けられた鍵の本数は、年間28万本にも及ぶ。引越しの鍵交換費用は年間216億円、ポストや鉢に隠した合鍵による不法侵入は年間7300件も起きている。つまり、鍵が物理的な存在であるが故に、さまざまな不都合が生じているのだ。
市場の大きさに気付いた河瀬氏ら6人は、2014年9月1日にフォトシンスを創業した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.