2016年10月に村田製作所が買収したフランスのIPDiAは、シリコンキャパシターを事業として手掛けるほぼ唯一のメーカーだ。積層セラミックコンデンサーに比べてかなり高価なシリコンキャパシターは、その用途は限られている。それにもかかわらず、なぜ村田製作所はIPDiAの買収に至ったのか。
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ドイツ・ミュンヘンで開催された「electronica 2016」(2016年11月8〜11日)。半導体メーカーが集まるホールの一角に、フランスのキャパシターメーカーIPDiA(アイピーディア)はブースを構えていた。一般的に、キャパシターなどの電子部品を扱うメーカーは、別のホールに集結している。だが、シリコンのキャパシターを手掛けるIPDiAは、あえて半導体メーカー向けのホールに出展していたのである。
IPDiAは、村田製作所が2016年10月に買収したメーカーだ(関連記事:村田製作所、仏Siキャパシターメーカー買収)。シリコン受動素子の設計、開発、生産、販売を手掛ける企業で、NXP Semiconductors(NXPセミコンダクターズ)からスピンアウトし、2009年に設立された。従業員数は約130人。年間売上高は約20億円である。
同社の主力製品であるシリコンキャパシターは、村田製作所などが従来手掛けてきたMLCC(積層セラミックコンデンサー)に対してかなり高価な製品だ。だがシリコンを使うことで、低インダクタンス(低ESL)、薄型化、高耐熱性、単位面積当たりの容量が大きいといった利点が得られる。
具体的には、厚さ80〜100μm程度、最高250℃までの耐熱などを実現している。村田製作所の第2コンデンサ事業部 事業企画部 企画2課のシニアマネジャーで、現在はIPDiAのセールス&マーケティングでバイスプレジデントを務める小林尚之氏によれば、インダクタンスについては現在、20pHまで低減できていて、将来的には10pHまで低減することを目指すという。これに対し、MLCCの場合は一般的には200〜300pHである。MLCCでも低ESLタイプがあり、スマートフォンのメインボードなどに使われているが、「それでも100pH程度が限界」だと小林氏は述べる。シリコンキャパシターとは1桁の差があるのだ。さらに、特に高周波のキャパシターで優れた特性を実現できるのが特長で、IPDiAは、20GHz、26GHz、40GHz、60GHzといった広帯域キャパシターをラインアップしている。
こうしたメリットから、高速通信や医療機器など高い信頼性が必要とされる用途でのニーズが高い。医療機器では、特にペースメーカーに使われることが多い。MLCCであれば30〜40個必要なところを、シリコンキャパシターであれば1チップで済み、高信頼性と省スペースを実現できるからだ。ペースメーカー向けのMLCCと比べると、シリコンキャパシターのコストは約10倍になる。だが、極めて高い信頼性が、コスト面でのデメリットを補って余りあるのだ。
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