ドイツ・ミュンヘンで開催されたエレクトロニクス関連の展示会「electronica 2016」(2016年11月8〜11日)に出展したトレックス・セミコンダクター。同社は今後、欧州において車載市場に大きく舵を切っていく。だが車載は、“新参者”が簡単に入っていける市場ではない。トレックスの英国法人Torex Semiconductor EuropeでManaging Directorを務めるGareth Henson氏に、その勝算を聞いた。
トレックス・セミコンダクターは現在、産業機器、車載、医療といった、民生分野以外に注力事業を移行しつつある。2016年3月の時点で、トレックスにおける「産業機器・車載・医療」の売上高は全体の41.9%だった。2017年末までには、これを50%近く、つまり売上高全体の約半分にまで引き上げる計画だ。
その鍵となるのが、車載向け製品である。2016年3月時における車載関連の売上高は、全体の13.5%である。このほとんどが日本での売上高だ。日本はもちろんのこと、日本以外の車載市場でどれだけ売上高を伸ばせるかが勝負になってくる。トレックスの英国法人Torex Semiconductor EuropeでManaging Directorを務めるGareth Henson氏は、「日本以外の海外市場では、車載用規格に準拠しているかどうかが、より厳しい目で見られる。とりわけAEC-Q100に準拠していることが重要だ。そしてこれまでトレックスは、AEC-Q100に準拠した製品を持っていなかった」と説明する。
そこでトレックスは2016年11月4日、electronicaの開催に合わせて、AEC-Q100に準拠した製品を発表した。それが、車載向け電源IC「XDシリーズ」である。トレックスとしては、AEC-Q100に準拠した初めての製品シリーズで、DC-DCコンバーターIC「XD9260/XD9261シリーズ」「XD9242/XD9243シリーズ」および電圧検出器「XD6130/XD6131シリーズ」の3シリーズがある。
だが、製品を用意したからといって簡単には入れないのが車載市場である。とりわけ欧州には、実績とブランド力を持つ強力なプレイヤーがひしめいている。”わが社の製品でなくてはならない”理由が、新規プレイヤーであるトレックスには必要になるのだ。Henson氏も、「トレックスにとって、欧州での車載事業は極めて新しい。欧州での知名度はほとんどない」と話す。「だが日本の車載市場では経験がある。そこで、その実績を欧州でも応用すべく、約1年前から時間をかけて顧客との対話を繰り返し、欧州における車載用電源ICへの要件や、トレックスとして何が提供できるのかを探ってきた」(同氏)
AEC-Q100に準拠する以外に、「われわれの強みとして生かせると考えたのが、『HISAT-COT』だった」(Henson氏)。高速応答を実現するスイッチング制御技術であるCOT(Constant On Time)制御方式を、トレックスが独自に発展させた技術である。
HISAT-COTは、「ノイズ対策が難しい」「コンパレーターの動作速度を高めることが難しい」「ESRの大きなコンデンサーで対策が必要になる」といったCOT制御方式のデメリットを補う技術で、高速過渡応答と高速スイッチング動作を実現し、パッケージの小型化と薄型化を図っている(関連記事:COT制御ながら6MHzの高速スイッチングを実現した高速過渡応答DC-DCコンバータ)。トレックスは2014年から、HISAT-COTを適用した同期整流降圧DC-DCコンバーターICを主に産業機器分野向けに展開してきた。
Henson氏によると、同社が最初にコンタクトを取った車載分野の顧客が、このHISAT-COTに興味を示したという。今回トレックスが発表した製品で、HISAT-COTを採用しているのは、XD9260/XD9261シリーズだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.