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Googleが育った小さな建物は、“シリコンバレーの縮図”へと発展したイノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜(10)(1/3 ページ)

人と資金と情報が豊富に集まるシリコンバレーでは、50〜60年という長い時間をかけて、イノベーションを生み出すエコシステムが形成されていった。このエコシステムによって、シリコンバレーからは大成功を収めたスタートアップが幾つも誕生している。シリコンバレーには、このエコシステムを“建物の中で再現”している場所がある。

» 2017年01月20日 11時30分 公開
[石井正純(AZCA)EE Times Japan]

「イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜」バックナンバー

エコシステムの誕生

 シリコンバレーの歴史をたどった「「シリコンバレー以前」から「PCの登場」まで」でも述べたように、1947年にトランジスタを発明したウィリアム・ショックレーは1955年、シリコンバレーのパロアルトにショックレー・トランジスター・コーポレーションを設立した。そこに8人の優秀な科学者が招かれたが、ショックレーと折り合いがつかず、結局は8人ともショックレーの元を去り、フェアチャイルド・セミコンダクターを設立している。彼らは自らを「8人の反逆者(the Traitorous Eight)」と名乗った。

フェアチャイルド・セミコンダクターを創立した「8人の裏切り者」

 ここで注目したいのが、前回も紹介した、「8人の反逆者(the Traitorous Eight)」の1人、Gene Kleinerである。彼は、ベンチャーキャピタル(VC)の会社クライナー・パーキンス・コーフィールド・バイヤーズ(KPCB)を1972年に設立し、起業家に資金を提供する側に回ったのだ。

 スタートアップの95%は、5年以内に消えていくともいわれるが、もちろん大成功を収める企業も出てくる。GoogleやFacebookなどはその典型だろう。こうした“金の成る木”を求めてVCが集まり、ベンチャー企業に投資してリターンを得ようとする。このようなVCが増えるということは、つまりは資金源が増えるということだ。資金が集まれば、人、技術、情報が集まってくる。そして、Googleのような企業が誕生し、その成功を見たVCは、“より金の成る木”に投資しようとする。

 シリコンバレーで生まれたこのような循環は、やがて、イノベーションを加速するエコシステムの構築へと発展していったのである。

 はじめは小規模だったであろうエコシステムは、大きな成長を遂げていく。シリコンバレーには、成長要因がそろっていたからだ。

 まず、スタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校などの優れた大学、またSRI International(SRIインターナショナル)、Xerox PARC(ゼロックス・パロアルト研究所)、Lawrence Berkeley National Laboratory(ローレンスバークレー国立研究所)などの優れた研究所の存在が挙げられる。次に、こうした所で研究あるいは開発された技術を使って起業したい人たちがたくさんいる。そして前述したように、VCという資金源も豊富なのだ。これら「アカデミック」「起業家」「VC」という3つのプレイヤーに加え、筆者が強調したいのは、いわゆるプロフェッショナルの存在である。例えばベンチャー企業やVCに詳しい弁護士、会計士、コンサルタント、ヘッドハンター、投資銀行、調査会社などだ。こうしたプロフェッショナルが、3つのプレイヤーの潤滑油として活動していることで、シリコンバレーのイノベーション・エコシステムが成立しているのではないだろうか。

シリコンバレーのイノベーション・エコシステム(クリックで拡大)
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