杉谷が次に示したスライドは図3であった。
パッと皆の目に飛び込んできた単語は「あるべき姿」であった。常日頃、上司や先輩から口うるさく言われている言葉だ。
「あるべき姿」という言葉の多用は、コンサルティング会社では特に珍しいことではない。「御社のあるべき姿は○○です。しかし現状は□□です。このギャップである△△が御社の課題です」と、少し「上から目線」で言うものだ。聞いている方も、「そうだよな」と納得する部分もあるだろう。ところが、人間誰しも面と向かって「できていないことを」大上段から言われると不愉快になるものだ。「偉そうなことを言いやがって」と、心の中では不納得の言葉を並べることもあるだろう。
組織の中で上手に世渡りをしていくためには、言われたことだけをやっている方がラクだ。余計な波風を立てることは自分が損するだけ。すなわち、自分の意志や考えは殺した方が得であるという考え方だ。自分以外の誰か(会社であれば上司かもしれないし、学校であれば先生かもしれない)から、「お前の悪いところはこれだ、これができていないからダメなんだ」と言われる。確かに、賢者から教えを乞う時には、これは正しいかもしれない。だが、自らが自分自身を変える、自分の属する組織を変えるときに、ダメなところをボロクソ言われたところで、自分が本当に望む組織になるとは限らない。大事なことは、「自分がどうしたいか」であり、「どういう状態でありたいか」を頭に思い描くことが必要だ。
杉谷が重視するのは、「あるべき姿」ではなく「ありたい姿」だ。これは、当社(株式会社カレンコンサルティング)では、「ステート・アプローチ」と呼ぶ。ステート(state)は状態を意味し、「どんな状態で仕事をしていたら気持ちよく仕事ができるか? お客さまは喜んでくれるのか?」をとことん考えることを重視する。自らが「こうなりたい、実現したい」という意志や気持ちを持ち、未来を描けなければ現状は決して打破できない。あるべき姿を、他人から指示されるのではなく、自らの意志を持ち、ありたい姿を未来像として描けるからこそ、頑張れるものだ。主体性の発揮や自立した組織にはこのような要素が不可欠である。
なお、前回(第8回)の図3で示した「ハード改革とソフト改革」を当てはめてみると、「ありたい姿」の「ステート・アプローチ」は「ソフト・アプローチ」に近いものとして位置付けられる。
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