QualcommによるNXP Semiconductorsの買収は、2016年に発表された大型M&A案件の1つである。この買収は2017年末に完了する見込みだが、米国政府と中国政府という2つの大きな壁によって、買収完了が長引く可能性がある。
米国の市場調査会社であるCapitol Forumが最近発表したレポートによると、QualcommがNXP Semiconductorsを390億米ドルで買収する計画が、思わぬ困難な問題に直面する可能性があるという。この合併買収については、2017年末に手続きが完了する予定だとされている。
同レポートは、買収の契約合意について、“二重苦”に陥る可能性があると指摘する。1つ目は、中国商務部(MOFCOM)が、QualcommとNXPの合併買収をターゲットに定め、認可の条件として事業部門の売却を要求する可能性があるという点だ。MOFCOMは近年、産業政策に従って動く傾向を強めているという。そして2つ目は、米国の外国投資委員会(CFIUS:Committee on Foreign Investment in the U.S.)が、「QualcommとNXPは、中国に機密技術を提供しているため、MOFCOMに譲歩を申し出る可能性がある」との理由から、両社の合併買収に反対する可能性があるという点だ。
Capitol Forumは、政策立案者や投資家、法律事務所、業界出資者などの幅広い読者を対象として、合併買収や独占禁止法などのトピックに関するレポートを、定期購読でのみ発行している。
Capitol Forumのレポートを執筆した弁護士であるAshley Chang氏は、EE Timesのインタビューに応じ、「今回のレポートは、QualcommとNXPの合併買収契約が、MOFCOMによって阻止されると結論付けているわけではない。しかしMOFCOMは、合併の審査を長引かせ、混乱を生じさせる恐れがある」と指摘している。
一部の半導体専門家や中国に詳しい専門家たちは、「QualcommとNXPの合併買収の先行きが不透明さを増している原因は、中国だけにあるのではない。米国の新政権の政策が、貿易外交において強硬姿勢を取る方向へと急激に移行していることも、1つの要因として挙げられる」として、懸念を示している。
East-West CenterのシニアフェローであるDieter Ernst氏は、「トランプ政権が、経済的なニュアンスを失いつつあることを懸念している。QualcommとNXPの合併買収や、業界において今後何が起こり得るのか、あらゆる可能性について自由に予測することは可能だが、トランプ政権は、強固な武装だけが全てだという方向に向かっている」と述べている。
今回の問題について、詳しく分析していきたい。
まず、「MOFCOMは過去にも、合併買収契約を破談に追い込んだことがあるのだろうか」という疑問が浮かんでくる。
Ernst氏は、「独占禁止法関連の調査に関する記録を見ても、MOFCOMがエレクトロニクス業界関連の契約に対して、あからさまな拒絶を示した例は1つもない。MOFCOMはつい最近まで、中国政府機関の中でも、国際統合に関しては最もオープンな姿勢をとっている」と述べている。
しかしChang氏は、「MOFCOMは、中国の最高国家行政機関である国務院に対し、独占禁止法に基づいた回答を提示する。米国の司法省や公正取引委員会は、独占禁止法の適用に関する審査において、政治的な影響を受けることはまずないが、MOFCOMは常に、中国政府の重大目標に合わせた判断を下さなければならない」と指摘する。
中国にとって現在最も重要な目標は、国内で独自の半導体産業を構築することだ。ここ最近、中国が進めようとしていた大型のM&Aが思うようにいっていないことを考慮すると、今回、MOFCOMがQualcommによるNXPの買収案件について中国が望むべく方向に持っていこうとしても不思議ではない。中国にとって、QualcommとNXPの合併買収は、両社の何らかの事業やIP(Intellectual Property)について、中国側に有利になるよう交渉できる絶好のチャンスになると、Ernst氏やChang氏は述べている。
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