2つ目の疑問は、「そうだとすれば、NXPとQualcommは、MOFCOMの承認と引き換えに、どの事業や技術を中国メーカーに売却あるいは譲渡する可能性があるのか」ということだ。
米国の市場調査会社であるIC Insightsの市場調査部門でシニアアナリストを務めるRob Lineback氏は、EE Times に対して、「NXPのどの事業であれば、中国の投資家や半導体企業に売却してもよいのだろうか。いろいろと考えてみたが、手放してもよいと思えるものは思い付かない」と話した。
「売却候補として最初に思い浮かんだのは、NXPのスマートカード向けマイコン事業だった」と同氏は言う。
「しかし、同事業を手放すのはたやすいことではない。政府関連のIDやEパスポート、運転免許などのセキュリティアプリケーションに関する数多くの懸念事項があるからだ」と同氏は続けた。同氏はさらに、「NXPのスマートカード向けマイコン事業は、年間約10億米ドルの売上高を誇る。NXPは同分野のグローバルリーダーで、同社の後にInfineon Technologies、Samsung Electronics、STMicroelectronicsが続いている」と付け加えた。
Lineback氏は、「スマートカード向けマイコンの売上高は成長が鈍化している。その理由として、スマートフォンによるワイヤレス決済の普及や、米国のティア1バンクによるデビットカードやクレジットスマートカードの初期展開が、2016年にほぼ完了したことなどが挙げられる」と説明している。
同氏は、「考えられるシナリオは、QualcommとNXPの合併によってICカード関連製品を中国メーカーに譲渡し、セキュリティ技術とIoT(モノのインターネット)向けIPコアを維持するというものだ」と述べる。
2015年12月のNXPによるFreescale Semiconductorの買収以降、スマートカード向けマイコンは、NXPのマイコンの売上高において4分の1強を占めている。Lineback氏は、「スマートカード向けマイコンを中国の投資グループあるいは企業への売却候補とするシナリオには大きな問題がある。それは、スマートカード向けマイコンが、セキュリティを含む機密性の高いアプリケーションに使われていることだ。この問題によって、中国によるスマートカードチップ事業の買収に対する米国の規制当局のハードルがさらに上がるだろう」と指摘した。
これは、Qualcommにとってはさらに頭の痛い問題だ。
同社はここ2カ月の間だけでも、韓国と米国の公正取引委員会による法的訴訟と、同社最大の顧客であるAppleが起こした訴訟に直面している。
韓国と米国の独占禁止監査機関とAppleは、スマートフォン向け技術の独占的地位を悪用したとしてQualcommを訴えている。AppleはQualcommに対して、米国で10億米ドル、中国で1億4500万米ドルの支払いを求めている。
Qualcommはこれらの訴訟の前に、中国でも独占禁止法に違反したとして訴訟を起こされている。同社は、9億7500万米ドルの罰金を支払い、中国で販売される特定の携帯電話機のロイヤルティーレートを引き下げることで和解した。
このように、Qualcommに対する圧力や訴訟は世界的に強まっているが、業界関係者は、それでもQualcommが、同社の中核であるチップセット事業やIPライセンス事業を切り離すことは決してしないだろうとみている。とりわけ、QualcommのIPライセンス事業を行うQTLは、Qualcommの心臓部だ。これだけはQualcommも守り続けるだろう。
(後編に続く)
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