ルネサス エレクトロニクスは、車載用マイコン向けのモーター制御専用回路技術「IMTS(Intelligent Motor Timer System)」を開発した。フィールド指向制御演算の処理を高速で実行し、CPUの負荷も大幅に軽減することができる。
ルネサス エレクトロニクスは2017年2月7日、EVモーター制御のための処理を行う専用回路技術「IMTS(Intelligent Motor Timer System)」を開発したと発表した。この専用回路をIPコアとして車載用マイコンに内蔵することで、フィールド指向制御演算の処理時間は従来に比べて10分の1以下となる。CPUコアの負荷も大幅に軽減することができるという。
2020年以降にも登場するとみられる次世代EV向けモーターは、最高回転数が10万rpmを超えるとみられている。このため、モーターを制御するECU(電子制御ユニット)には高い性能や機能が求められている。制御用ソフトウェアも複雑となり、ECUに搭載されるマイコンも、演算を高速に実行できる性能が必要となる。しかも、車両1台に搭載されるモーター数はさらに増えることが予想されている。
一方で、車載用マイコンは厳しい動作環境においても、高い信頼性が求められる。このため、ICチップ自体の発熱を抑える必要がある。処理能力を向上させるために動作周波数を高めていくには限界もあり、演算回路のハードウェア化など、回路設計の工夫が必要となる。
ルネサス エレクトロニクスは今回、フィールド指向制御演算を0.8マイクロ秒で実行する専用回路を新たに開発し、車載用マイコンに搭載した。CPUコアとは独立して実行することが可能な構成とした。これにより、モーター制御時にCPUコアの負荷を大幅に軽減することが可能となった。
モーター制御は、センサーによるモーターの電流値や角度の取得、指定の制御値に近づけるためのフィールド指向制御演算及び、PWM出力など一連の処理を行う。従来はこれらモーターの制御周期の管理を、マイコン内部のタイマー回路で行っていた。ところが、複数のモーター制御を同時に行うことになると、動作周波数が320MHzのCPUを内蔵したマイコンで処理しても、これらの演算処理のみでCPUの負荷は最大90%にも達することがあるという。
こうした課題を解決するために同社が開発したのがIMTS技術である。IMTSはフィールド指向制御演算回路をIPコアとして専用化し、モーター制御の専用タイマー回路と密結合する構成とした。これによって、制御周期ごとに行ってきた一連の処理を、IMTS側で自律的に行うことができる。CPUからは独立した形で動作する。
IMTSを搭載した40nmフラッシュ内蔵マイコンを試作し、モーター駆動システムに適用して動作検証を行った。IMTSによるフィールド指向制御演算処理時間は、専用回路としたことで0.8マイクロ秒と高速だ。この数値は、SiCパワーデバイスを用いた次世代EVモーター制御システムなどにも十分に対応できる性能だという。動作周波数が160MHzの自社製CPUでソフトウェア処理した場合は、10.6マイクロ秒も要していた。
なお、制御するモーターの個数に合わせて、マイコン内部に同数のIMTSコアを内蔵すれば、マイコン1個で複数のモーターを制御することができるという。IMTSコアが占める面積は極めて小さく、多数のIMTSコアをマイコンチップに内蔵することが可能である。同社は、IMTSをIPコアとして用意し、外部に技術ライセンスすることも計画している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.