IntelがMobileyeを買収することで合意したと発表した。自動運転車向けのコンピュータビジョン技術において既に同分野をけん引する存在であるMobileyeが買収されるというこの発表は、業界を驚かせた。調査会社のアナリストなど、業界の専門家はこの動きをどう見ているのだろうか。
Intelは2017年3月13日(米国時間)、イスラエルのMobileyeを約150億米ドルで買収することで合意に達したと発表した。これを受け、業界全体に大きな衝撃が広がっている。Mobileyeは、ADAS(先進運転支援システム)および自動運転車向けのコンピュータビジョンチップおよびアルゴリズムを手掛けるメーカーで、同分野では既に確固たる地位を確立している。
Vision Systems Intelligence(VSI)の設立者で主席アドバイザーを務めるPhil Magney氏は、「今回の買収契約は、自動運転車市場では過去最高規模となる。Intelは近年、資金力にものを言わせて自動車市場への参入を推進してきたが、今回、業界最高クラスのビジョンチップ技術を持つMobileyeの買収により、自動運転車市場で存在感を示せるようになるだろう」と述べる。
Intelが買収した企業 | 発表時期 | 買収額 | 買収された企業の技術 |
---|---|---|---|
米Wind River Systems | 2009年6月 | 8億8400万米ドル | 組み込みOS |
米Arynga | 2016年4月 | 非公開 | コネクテッドカー向けソフトウェアのアップデート 管理機能 |
イタリアYogitech | 2016年4月 | 非公開 | 機能安全ソリューション |
米Itseez | 2016年5月 | 非公開 | コンピュータビジョン |
米Nervana | 2016年8月 | 推定4億米ドル | クラウドベースの機械学習 |
自動運転関連の技術を手に入れるためにIntelが買収してきた企業 |
Mobileyeの共同創設者でありプレジデント兼CEO(最高経営責任者)を務めるZiv Avriam氏と、同じく共同創設者でありCTO(最高技術責任者)兼チェアマンを務めるAmnon Shashua氏は、連署した従業員宛書簡の中で、「今回の合併買収は、MobileyeがIntelに統合されるのではなく、Intelの自動車チーム『Automated Driving Group(ADG)』がMobileyeに統合されるという点で、ユニークな契約だといえる」と強調している。
今回の契約に基づき、IntelのADG部門担当シニアバイスプレジデントであるDoug Davis氏と、バイスプレジデントであるKathy Winter氏が、取引完了後にShashua氏に直属する形になるという。
つまり、IntelのADG部門が、Mobileyeの研究開発チームの管理下に置かれるということだ。
Winter氏は、「Intelが今回の契約に合意した理由は?」とするEE Timesの質問に対し、「Mobileyeは、非常に動きが速いことで知られている。このような同社の企業文化を維持したいと考えたためだ」と述べている。
MobileyeでAdvanced Development and Strategy担当シニアバイスプレジデントを務めるErez Dagan氏は、「当社にとっては、今回の合併買収により、現在進行中の全てのプロジェクトをスムーズに展開しながら、ペースも加速できるようになる」と述べている。
とりわけMobileyeの経営陣は、従業員宛の書簡の中で、「Mobileyeがこれまで、自動車メーカーやティア1サプライヤー、STMicroelectronicsとの間で築き上げてきた協業関係や、『Eye Q』チップのロードマップ、当社のアフターマーケット部門の活動などは、今後も妨げられることなく継続できる」と繰り返し主張している。
つまり、ADAS向けコンピュータビジョンチップ市場において、既にほぼ独占に近い状態を実現しているMobileyeに対し、Intelが今、合併買収によって組織的な混乱状態を引き起こすなどの、余計な干渉をすべき時ではないということだ。
Magney氏は、「Intelは、Mobileyeの技術開発チームが、ビジョンチップだけでなく、Road Experience Management(REM)や運転方針(Driving Policy)などの他の技術分野でも、はるか先を進んでいると確信しているようだ。Mobileyeの研究開発チームを活動の中心に置くのは、正しい判断だといえる」と付け加えた。
経営陣は今後、取引完了までの9カ月の間に、両社の合併による相乗効果を見極め、効率的な組織化の実現について考案する責任を負う。
Winter氏は、IntelからMobileyeに移管する従業員数については、コメントを避けている。
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