太陽以外の天体、すなわち惑星と月の運動に関する「数学集成(アルマゲスト)」の記述に関しても、レギオモンタヌスは観測天文学の立場から、批判を加えている。
「数学集成(アルマゲスト)」によると、火星と地球の距離の比率は最遠点と最近点で7.2倍である。すると見かけの面積の違いは最大で52倍になる。また金星と地球の距離の比率から、見かけの面積の違いは最大で45倍になる。いずれもレギオモンタヌスは、観測からはこのような結果は得られていないと断じる。(参考、山本、『世界の見方の転換』、第1巻、212ページ)
ただし当時の天体観測手段は肉眼だったので、肉眼で見た惑星は面積を把握するには小さすぎるとともに、見かけの明るさが距離の遠近に関連すると(距離が近くなると明るくなると)考えられていた。このため、レギオモンタヌスの火星と金星に関する観測が正しかったかどうかは、良く分からない。
そしてもちろん、「数学集成(アルマゲスト)」の記述は定量的には誤っている。現代の天文学では、太陽と地球の平均距離は1.494億km、太陽と火星の平均距離は2.279億kmなので、地球と火星の距離は最大で約3.8億km、最小で約0.78億kmだから、距離の比率は約4.9倍である。そして太陽と金星の平均距離は1.082億kmなので、地球との最大距離は約2.6億km、最小距離は約0.41億kmとなる。距離の比率は約6.3倍である。
「数学集成(アルマゲスト)」と観測結果が著しく異なるという、最も明白な誤りは、月の運動に関するものだろう。なぜならば、満月のときには肉眼でも明確にその大きさを定量的に観測できるからだ。地球と月の距離の比率(最大距離と最小距離の比率)は、「数学集成(アルマゲスト)」によると、約2倍である。すると月の見かけの大きさ(面積)には最大で4倍の違いが生じる。しかし実際には、月の見かけの大きさはほとんど変わらない。面積の大きさの違いは約1.3倍にすぎないのである。
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